その時、一瞬脳裏を掠めたのが……昨日ケイジくんが独り言のように落としたあの言葉だった。
“鴉が復活する日も近い”
鴉──黒い、鷹……?
まさか……
重なった、二つのチーム。
今はもう語り継がれるだけとなった、“鴉”。
だとしても、ハイジが言っていたようにかつて鴉が関東最大のチームだったなら、その存在はそう簡単に消え失せるはずがない。
“ある一つの推測”にハッとなって顔を上げれば……真摯な表情でじっと私を見据える飛野さんと、視線が交わった。
「──戻りたいか?」
彼は静かな声で、私にそう紡ぐ。
「引き返したくなったか?」
“黒鷹”にまつわる話を聞き、これまで彼らがどういう道を歩んできたかを知った私に……飛野さんは問う。
きっと、不安と戸惑いに揺れ動く私の胸の内を、彼は見抜いてる。
だから、こうやって私をさらに揺さぶる。
「噂、でしょ?飛野さん。ただの噂。そうですよね?」
「あながち間違っちゃいねえよ」
否定してくれることを期待してたわけじゃない。
だけど、肯定とも取れるような言葉を告げられたら……私は何も言えなくなる。
絶対違うんだ、って。
さっきの翔桜の男達と、彼らが同等の場所にいるはずがない。
「ついて来るも来ないも、お前次第だ」
だって、厳しい表情とは裏腹に、飛野さんの声色は穏やかだから。
「何を信じるか、もな」
私に大事なことを説くかのような口調に、やっぱり彼らはそんな人達じゃないと思ったんだ。
噂は噂だと。
真実を見極めるのは、自分自身。
全ては、私が決めることなんだ。
「飛野さん、私……みんなのことが知りたいんです。知りたいのは、本当のことだけなんです」
ここに私を連れてきたのも、きっと意味があるから。
少しでも彼らに近づくことができるなら、行かなきゃ。
後ろに道はない。
あるのは、前へと続く道だけだから。
「ああ。……ちょっと怖がらせちまうかもしれねえけど、俺達はお前の知ってる俺達だ。それだけは覚えといてくれ」
飛野さんは、私に笑顔を向けてくれた。
そして、再び歩き出した彼と共に、私と朝美は倉庫の中へと足を踏み入れた。


