「……ひーちゃん、急いでくれ」
窓から夜の景色を眺めていると、タイガが不意に口を開いた。
低く張り詰めた声に、全員そちらへ注目する。
「何だよ、どうかしたのか」
「いいからスピード上げてくれ!時間がねえ!!」
「……おい、黒羽。何だってんだよ。客乗せてんだ、んな簡単に飛ばせねえぞ」
「やべえんだよ!!」
徐々に荒ぶっていくタイガの声は、最後にはほとんど怒鳴り声になっていた。
私も朝美も訳がわからず、思わず身を強張らせるばかり。
飛野さんに顔を向けるタイガは、まるで良くない何かに追われているように険しい表情をしていた。
それが不安を大きく煽る。
ついさっきまでエロ帝王だったタイガが、急にこんな態度を見せるなんて……。
正体は不明でも、危険な“何か”に狙われているのでは──と疑わずにいられなかった。
「タイガ、何──」
「黙ってろ!!」
喋りかけようとしたら、もの凄い剣幕で怒鳴られ、速攻で口を閉じた。言葉を喉元で止める。
はっきり言って、めちゃくちゃ怖かった。
『まさかさっきの、妄想へのお誘いにご立腹なんじゃ……!!』とヒヤヒヤして仕方がなかった。
飛野さんも黙り込み、車内は途端に緊迫感に包まれる。誰ひとりとして言葉を発しない。
車は夜道を走り続ける。ほんの少し、速度を上げて。
スマホの画面を何度も確認するタイガは、落ち着きがなくて。
その様子を見ているこっちまで、胸がざわつく。
やがて街の景色が変わり、街灯が少なくなっていく。
……あれ?
てっきり、ジローさんの家に行くものだと思ってたのに……車の進む先はどうも違う。
寂しげな風景に、疑念が渦巻く。
どこへ行こうとしてるんだろう……。
ジローさん、どこにいるっていうんだろう。
やがて車は速度を落とし、ゆっくりと徐行しながら止まった。
目的地に着いたらしい
私はフロントガラスから、正面の建物を見やった。
そこには大きな建物が、夜の闇にどっしりと構えていた。
厳めしく聳え立つその姿は、建物自体が魔物のようだった。
ここは……倉庫だろうか。
街外れにある、大量の積荷を保管しておくような、体育館並みに広大な倉庫。


