「じゃ、行こうか」
「え?あの、どこに?」
「なんだ、黒羽。言ってねーのか」
飛野さんの意外そうな声に、私はきょとんとする。
私たちが行き先を知っていて当然──そんな口ぶりだったから、助手席のタイガに視線を送った。
「タイガ、どこ……行くの?」
不安げに揺れる私の声に、タイガはスマホをいじりながらあっさり答える。
「決まってんだろ。帰んだよ、オメーの愛しのご主人様のとこによ」
ご主人様って……ジローさんのこと……?
“ねえねえご主人様って~?もしかしてあんた、アブナイ世界に足突っ込んでんじゃないでしょうね!?っていうかさぁ、黒羽先輩とどういう関係!?この車何なの!?ケイジくんともアサミの知らないうちに仲良くなってるしさぁ、何があったのぉ!?ハイジくんともそうなの!?ひょっとして、白鷹先輩とも!!?”
コソコソ話してるつもりなんだろうけれど、全然抑えきれてない朝美の大興奮な声よりも、何よりも。
一気に聞きすぎでしょうよ、とかいうツッコミよりも。
最初の質問忘れちゃったよ、とか考えるよりも。
向かう先が、ジローさんのところだということの方が私には重大で。
「何しに……」
ほとんど独り言のような呟きでも、タイガは拾ってくれた。
「『何しに』?理由がいんのか?アイツんとこにお前が行くのに、“理由”が」
まるで当然だろと言わんばかりのタイガの言葉に『そっか~別に飼い犬が飼い主のもとに帰るのに、理由なんていらないか~』なんて、危うく丸め込まれそうになった。
違うじゃん!!いいわけないじゃん!!
だって……もう、私とジローさんは関係ないのに。
私とジローさんの間には、何もないのに。
タイガは、知らない?
ジローさんから何も聞いてないの?
飛野さんも……?
「で、翔桜のヤツらは三那に任せてあるのか?」
「ああ」
「アイツ、ムチャしてねえだろうな」
「さあな。釘は刺しといたけどよ、ミッチーのことだ。アイツの“加減”は俺らにしちゃギリギリだからな」
「……シンマとの関係は?」
「ひーちゃ~ん、それをこれから吐かせんだろ~?」
飛野さんとタイガのやり取りを、私はただ黙って聞いていた。


