いつか、タイガがあの大教室でハイジと話していた。
“ミッチーいるだろ?アイツ鬼だぞ、マジひでえよ。翔桜のヤロウの鼻折りやがったからな”
そのセリフを思い出した瞬間、いても立ってもいられなくなった。
「ハレルヤさん、待ってください!あの、乱暴しないでください!!」
どうにか止めなきゃって、口をきいたこともないこの人に訴えかける。
朝美はなぜそんなことを言い出すのかと言いたげに、目をぱちくりさせていたけれど──
私はこれ以上、気力を失った人間を叩きのめす彼の姿を見たくなかった。
とっくに勝負はついてる。
無抵抗な人を、痛めつけてほしくない。
ううん、翔桜の男をかばうつもりなんてこれっぽっちもない。
そうじゃなくて、非情なタイガとハレルヤさんを見続けていたくなかったんだ。
私が勘違いしてるだけかもしれないけど、フザけて、イタズラ好きで、エロくて軽くて……それが、私の知ってるタイガだから。
こんな怖いタイガを、タイガだと認めたくなかった。
「黒羽、ソイツらを早く連れていけ」
私の存在など最初から眼中にないというように、ハレルヤさんが素っ気なく言い放つ。
私の訴えを、取り合ってはくれなかった。
「タイガ、ねえ……お願い!タイガだったら止められるんでしょ!?」
もう食い止める方法は、タイガに縋るしかない。
どうにかして欲しい一心で詰め寄った私に──
「言ったろ。俺達は正義の味方じゃねえ。ましてやヒーローでもねえ。そこらのチンピラと変わんねえよ」
怒鳴るわけでもなく、冷たく突き放すでもなく。
諭すように落ち着き払った声で、むしろ優しささえ滲むような声で──タイガは無情の言葉を告げた。
ただ、悲しかった。
何を言っても無駄なんだと、自分の無力さを思い知らされるだけだった。
足元に視線を落とし、タイガが貸してくれた制服の上着をくるまるようにして握りしめる。
頭じゃ、わかってる。わかってた。
彼らが“正義のヒーロー”じゃないことくらい。
私と朝美を襲った翔桜の男達と、同じ世界に生きてることも。
だけど、私が彼らの仲間になりたいと願ったのは──
私にとって、彼らは紛れもなく“ヒーロー”だったから。
信じたいと思わせてくれた。


