「ここをラブホかなんかと勘違いしてんじゃねーか?ま、ラブホにもカラオケはあるけどよ」
タイガの声色はいつもと変わらず軽い。
どうでもいい情報まで、わざわざご丁寧に教えてくれた。
そして入り口付近のスイッチが押されたのか、冷たい空気の漂う部屋に、ぱっと暖かな明かりが灯った。
闇に慣れていた目にはその光が強すぎて、思わずぎゅっと瞼を閉じる。
しばらくしてからそっと目を開けば、視界は鮮明になり──男たちは私から離れ、部屋の隅に退いていた。
そして、「えーうそォ、信じらんない!!黒羽先輩!!?なんでぇ!?」と場違いな黄色い声をあげる朝美に辟易しつつ。
私も金髪二人組を、恐る恐る見上げた。
タイガと目が合った、と思ったら。
「俺を誘惑してんのか?いつそんな芸当仕込まれたんだ、タマちゃん」
「ぶっ」
上から降ってきたのは、タイガが脱ぎ捨てた制服の上着。
ばさっと顔にかかり、視界が再び黒に覆い尽くされた。
「すまねえな、年下には興味ねえ。けどどうしてもってんなら、一発だけなら相手してやんねえことも──」
「バカ!!エロバカ!!」
見境いなしのタイガのエロトークを防ぐために、慌てて顔を出した。
睨みつけてやろうと思ったのに。
そこにいたのは、しゃがんで私と目線を合わせるタイガだった。
ニヤニヤしてるかと思いきや、妙に落ち着いた表情で。
「その様子じゃ、心配いらなそうだな」
優しい声と眼差しで、私の頭をくしゃっと撫でる。
私の心の中なんて全て読み取られているかのようなタイガの瞳に、言葉を飲み込んだ。
黙って、タイガの制服を羽織った。
こうやって普段と同じように、私をからかうのも……私に気を遣わさないようにしてくれてる。
ボタンが千切られたカッターシャツのせいで前が全開な私のために、上着を貸してくれたことも。
だから、タイガがそうしてくれるなら、何も言わずにその優しさを受け取ろうと思った。
まだ温もりの残る制服に包まれ、張り詰めていた緊張が少し和らいでいく。
「ジローに連絡しろ」
頭上から降ってきたのは、冷たく無感情な声。
背筋をゾクゾクさせるほど低いその声は、確認するまでもなくハレルヤさんのものだ。
逆立つブロンドの髪は、まるでライオンの鬣のよう。
深い青の瞳は、翔桜の男達を静かに見据えていた。
狙いを定めた獲物を、今から狩ろうとしているかのような眼差しだった。
恐ろしいほど身長が高く、がっしりとした体つき。
そこに立っているだけで、ひしひしと圧迫感が伝わってくる。
ジローさんの家で初めて会った時は酷い怪我を負っていて、今も薄い傷跡が残っている。
けれど、その傷跡すら似合ってしまうほど精悍な顔立ちと佇まいに、私はただ圧倒されていた。


