瞬間的に、空気ががらりと変わったのを肌で感じる。
誰もが息を飲み、凍りつく。
私はただ一人、呆然とするだけ。
まさかここで耳にするとは思わなかった、“彼”の名に……口を半開きにしたまま固まっていた。
……ジローさん?
なんで、ジローさん?
「……はっ、何言ってんだてめえ。これからがイイトコなんだからよ、んなつまんねえジョーダン──」
“マキムラ”と呼ばれた男がユウくんにそう吐きかけたけど、その言葉を最後まで言い終えることはなかった。
語りかけていた相手が、大人しく聞いてられる状態ではなかったから。
前触れもなく、勢いよく開け放たれたドア。
それはもう、壊れるんじゃないかってくらいに猛スピードで壁にぶつかって、体がビクンとなるほどに大きな音を立てた。
そして不運にも、そのすぐ手前にいたユウくんは──
ドアの向こうから飛んできた“誰か”の蹴りをまともにくらい、床へ倒れ込んだ。
腹に直撃し、咳き込みながら苦しげに顔を歪めるユウくん。
間を置かず、今度は部屋の外にいたヒロくんが室内に投げ飛ばされるようにして、床に叩きつけられ……。
一瞬の出来事で何がなんだかわからないうちに、ユウくんとヒロくんは並んで横たわり、呻いていた。
「おー、いたいた。けっこー探したぜ?」
聞き覚えのある、ノウテンキな声。
その声とともに、未だ暗い部屋の入り口から影が二つ現れる。
「宴もタケナワってな。盛り上がってっとこ悪ィけどよォ……返してもらうぜ、ソレ。うちのお姫さまなんでな」
真っ先に私の目を奪ったのは、金色。
口元に軽く不敵な笑みを浮かべた、金色の虎。
その後ろでぬっと立つ、物言わぬ大男。
鋭い牙の如く研ぎ澄まされた青い瞳を持つ、金色の獅子。
薄暗い室内で際立つ、二つの金色。
それこそが、希望の光なのかもしれない。
予想外の組み合わせのゴールデンコンビに、瞬きをすることすらできず、目を見開いたままその光景を見つめていた。
タイガと……ハレルヤさん。
本来なら『助かった』と、『もう大丈夫なんだ』と。
手放しで喜ぶべき場面なのに。
まさにヒーローのように颯爽と現れた“彼ら”に、安堵して感謝するはずなのに。
なぜなんだろう。
今は、そう思えなかった。


