バッと男の手が離れ、私の上にのしかかっていた男も突然の出来事に目を白黒させる。
その隙をつき、私はテーブルに置かれていた選曲用の端末を掴む。
凶器にするために。
体の上にいる男へ、無我夢中で振り下ろした。
「っく、……」
仰け反った男が力を抜いた瞬間を逃さず、その体を跳ね退け、どうにか下から這い出す。
そして、朝美に群がる男達の背後からも一撃をお見舞いした。
「朝美、早く!!」
ヤツらが怯んだ、その一瞬。
それが最大のチャンスだった。
──逃げるんだ、ここから。
こんなヤツらの好きになんか、させない。
させてたまるもんか。
視界は悪く、何がなんやら区別もつかない。
だけど戸惑ってなんかいられない。
ほんの僅かな時間……一瞬に、賭けなきゃならないんだから。
「もも、アサミね……」
「急いで!!」
朝美が口を開きかけたのを、私は切り捨てる。
一刻の猶予もない。
頭にあるのは、ここを脱出することだけ。
たとえ朝美が本城咲妃と繋がっていて、私をハメようとしてたとしても。
それでも、私は彼女を見捨てられない。
理屈じゃない。理由なんてない。
ただ体の赴くままに──朝美の手を、強く握った。
彼女を立たせ、引きずるように部屋の入り口へ走る。
ドアのガラス越しに漏れる光。
それが私達の、希望の光。
その光を求めて──
「!」
あと、少し。
あと少しで……逃げられるはずだった。
でも、ダメだった。
悪夢はそう簡単に終わってくれない。
後ろから髪を掴まれ、もの凄い力で後方に引き倒される。
「ももォ!!」
朝美の悲鳴じみた金切り声。
ガラステーブルに体を叩きつけられた、ガシャンという派手な音。
それらが重なって、聞こえた。
余りの激痛と、希望が断たれたショックとで……全身から力が抜けた。
「ナメたマネしてんじゃねーぞ、クソアマ」
私を見下ろす複数の目に、血の気が引く。
「あ、……」
ガタガタと震える手足を、抑えられない。
怖くてどうしようもなくて、覚悟なんてできるはずがなかった。
次の瞬間、視界がぶれたかと思うと……頬に痛みと熱が走る。
打たれたんだと理解した時には、口内が切れていて、鉄の味が広がった。
もう──覚悟せざるを得なかった。
動画を撮ろうとしているのか、スマホのカメラがこちらを向いている。
何人もの手に体の自由を奪われ、抵抗する気も起こらなかった。
暴力の恐怖に屈した私には、男達に逆らうなんて自殺行為だと叩き込まれたから。
朝美の叫び声も、何もかも。
もう心には、響かない。
「──マキムラさん、ヤバいっスよ……!!」
だから。
突然部屋に飛び込んできたユウくんの切羽詰まった声も、この時はただ耳をかすめて消えていった。
でも……その次の言葉だけは違った。
それが私に、再び心を取り戻させた。
「ソイツ、白鷹の女です……白鷹次郎の!!」


