気まぐれヒーロー2




バッと男の手が離れ、私の上にのしかかっていた男も突然の出来事に目を白黒させる。
その隙をつき、私はテーブルに置かれていた選曲用の端末を掴む。

凶器にするために。

体の上にいる男へ、無我夢中で振り下ろした。


「っく、……」


仰け反った男が力を抜いた瞬間を逃さず、その体を跳ね退け、どうにか下から這い出す。

そして、朝美に群がる男達の背後からも一撃をお見舞いした。


「朝美、早く!!」


ヤツらが(ひる)んだ、その一瞬。
それが最大のチャンスだった。


──逃げるんだ、ここから。


こんなヤツらの好きになんか、させない。
させてたまるもんか。


視界は悪く、何がなんやら区別もつかない。
だけど戸惑ってなんかいられない。

ほんの僅かな時間……一瞬に、賭けなきゃならないんだから。


「もも、アサミね……」
「急いで!!」


朝美が口を開きかけたのを、私は切り捨てる。

一刻の猶予もない。
頭にあるのは、ここを脱出することだけ。


たとえ朝美が本城咲妃と繋がっていて、私をハメようとしてたとしても。

それでも、私は彼女を見捨てられない。

理屈じゃない。理由なんてない。


ただ体の赴くままに──朝美の手を、強く握った。


彼女を立たせ、引きずるように部屋の入り口へ走る。


ドアのガラス越しに漏れる光。

それが私達の、希望の光。


その光を求めて──



「!」



あと、少し。

あと少しで……逃げられるはずだった。


でも、ダメだった。
悪夢はそう簡単に終わってくれない。


後ろから髪を掴まれ、もの凄い力で後方に引き倒される。


「ももォ!!」


朝美の悲鳴じみた金切り声。

ガラステーブルに体を叩きつけられた、ガシャンという派手な音。

それらが重なって、聞こえた。


余りの激痛と、希望が断たれたショックとで……全身から力が抜けた。



「ナメたマネしてんじゃねーぞ、クソアマ」



私を見下ろす複数の目に、血の気が引く。


「あ、……」


ガタガタと震える手足を、抑えられない。

怖くてどうしようもなくて、覚悟なんてできるはずがなかった。

次の瞬間、視界がぶれたかと思うと……頬に痛みと熱が走る。

()たれたんだと理解した時には、口内が切れていて、鉄の味が広がった。


もう──覚悟せざるを得なかった。


動画を撮ろうとしているのか、スマホのカメラがこちらを向いている。

何人もの手に体の自由を奪われ、抵抗する気も起こらなかった。

暴力の恐怖に屈した私には、男達に逆らうなんて自殺行為だと叩き込まれたから。


朝美の叫び声も、何もかも。

もう心には、響かない。




「──マキムラさん、ヤバいっスよ……!!」




だから。

突然部屋に飛び込んできたユウくんの切羽詰まった声も、この時はただ耳をかすめて消えていった。


でも……その次の言葉だけは違った。

それが私に、再び心を取り戻させた。




「ソイツ、白鷹の女です……白鷹次郎の!!」