暗い部屋にはスピーカーからの低音と高音が空気を震わせるように鳴り響き、そこに獣と化した男の荒い息遣いが混じって、空間は混沌に染まっていた。
「っ!」
私のカッターシャツの首元を男は両手で掴むと、一気に引き裂いた。
弾け飛ぶ、いくつかのボタン。
晒けだされたのは、今日も幼稚な私の下着。
“白だよ、白。今までにねえタイプじゃね?”
“ぎゃははは!!清純系~?”
“俺そっちの方が燃えるわ。ヤリがいあんじゃん”
もし手が自由だったら絶対に、両耳を塞いでいただろう。
この薄汚い声を聞かないように、聞こえないように。
吐きそうだった。
唇を噛み締め、目を堅く閉じ、心を殺して……ただ一刻も早く終わることを願うしかなかった。
そんな現実から、逃げられない。
「なんで!?私、咲妃ちゃんからこんなの聞いてない!!」
……え?
朝美?
今の、何?
ぼやけた視界のせいでしっかりとその姿を見ることはできなかったけど、朝美も男に押し倒されていて。
彼女は必死に、そう叫んだ。
咲妃?
咲妃って……本城咲妃のこと?
朝美がこの場面でその名を出したことで、胸に芽生えたのは疑念。
まさか……朝美と本城咲妃が、繋がってる?
朝美も、グルだってこと?
どういう、ことなの?
朝美……私を、騙してた?
「咲妃がお前も一緒にヤれってよ。利用されてただけだって、今ごろ気づいたのかよ。バカじゃねーの?」
男の言葉に頭を過ぎったのは──あの本城咲妃の、不吉な冷笑だった。
ようやくその意味を、私は知った。
その瞬間、全ての感情は後悔と憎しみと怒りに変わる。
ここまでやるのか。
他人を駒みたいに使って、私一人を追い詰めるために……!!
体の奥底から迸る激情に、突き動かされる。
自分が自分じゃないみたいで、目に映るもの全てを滅茶苦茶にしたくて仕方なかった。
“いいか、もも。力じゃどう足掻いても、男には負ける。けどな、顎の力ってのは意外と強いもんだ。危ねえ目にあったら、思いっきり噛みついてやれ”
ふと蘇る、お兄ちゃんの声。
お兄ちゃん流の護身術。
ありがとう、お兄ちゃん
役に立ちそうだよ。
腹を括った私は、口を塞いでいた男の指に──
「……、ってえ!!!」
遠慮無く、噛みついた。


