「大人しくしてろよ?お利口にしてたら、すぐ終わるからよ」
その言葉の意味も……嫌でも勘づいていた。
ただ怖くて仕方なくて。
何をされるのか想像しただけで、震えが止まらなくて……為す術がなかった。
誰かがスピーカーの音量を上げたのか、室内は鼓膜をビリビリ震わすような騒音で、混乱に陥った。
叫んでも、喚いても、音楽に掻き消される。
助けを求める声は──誰にも届かない。
私に馬乗りになっている男とは別の男に、両手を頭上で押さえつけられ、口を塞がれた。
「お前ら、外で見張ってろ」
「は、はい」
命令されたユウくんとヒロくんは、私達に目もくれず部屋から去っていってしまった。
二人もまた、恐怖に縛られた目をしていた。
たぶんこの男達は二人の先輩で、上下関係は明らかに上なんだろう。
逆らえないんだ……コイツらに。
薄闇のなか、私を見下ろすのは汚れた欲望に染まった、卑しい目。
耳をつんざく騒音に混じって響くのは──私を絶望へ突き落とす、男達の卑劣な笑い声だけだった。
何がどうなって、今に至るのか。
一体、何が起こってるのか。
状況を整理する間もなく降りかかった悪夢に、私の力なんてちっぽけすぎた。
──男に襲われている。
はっきりしているのは、ただ、それだけ。
“俺らみてえなのばっかじゃねえ、平気で女を襲うヤツなんざ世の中腐るほどいんだよ。もっと男に警戒心持て”
ねえ、ハイジ。
ハイジの言った通りだったよ。
私なんかをそういう対象に見る人なんて、いないって思ってたんだ。
そんな物好きはいないって、“まさか自分が”、って。
どこか他人事だと捉えていた。
でも本当は可能性なんて、いくらでもあり得るのに。
きっかけなんて、そこら中に転がってるっていうのに。
ニュースで報道されるような“犯罪”に自分が巻き込まれるなんて、思いもしなかった。
そんなのは画面の向こうの話だと、聞き流していた。
だって、ユウくんとヒロくんは朝美の知り合いらしかったから。どこかで油断してたんだ。
危なそうには、見えなかった。
でも私には男の子を見る目なんてなくて、見抜けなかった。
それに……ジローさん達がそうだったように、二人もそうなんじゃないかって思ってしまった。
外見だけじゃない。
ちゃんと話して、その人の言葉を聞いて、その人の目を見ないと……その人自身はわからない。
最初から決めつけるのは、よそうって。
なのに……やっぱり、“そう”だったの?
私の考えが甘かったの?
仕組んだのは、『二人』の方だった?
それとも……この男達?
ハイジは忠告してくれた。
それなのに、こんな事態になってしまったのは私の不注意。
ファーストフード店で会った時、翔桜の男子だとわかった時点で、朝美を連れて帰ればよかった。
たらればばかりが、頭をよぎった。


