「わけわかんねえ。おかしいんじゃねえの?お前」
うん、そうだ。
頭おかしいんだ、私。
自分で『タマ』って言っちゃってる時点で、アブナイよね。
ペット扱いが、すっかり染みこんじゃってるけど。
いいんだ。
おかしいって自覚してるのに止められないくらいに、ヤバいくらいに──
好きなんだ。ジローさんが。
軽蔑した目で睨んでくる“赤の他人”の男の子のことなんか、どうでもよかった。
やっぱり苦しいことには、変わりない。
思い続けたってどうしようもないのも、わかってる。
それでも。
私の心にいるのは、ただ一人。
それだけは揺らがない事実。
今は、その気持ちに正直にいたかった。
だから私は無言のまま、“彼”の前から立ち去った。
背後から何か言われた気もしたけど、聞こえないフリをした。
とにかく、早くこの場から離れたかった。帰りたかった。
朝美達がいる部屋に戻ると、盛り上がってる二人の姿なんて目に入らなかった。
鞄を掴んで、そのまま出て行こうとする。
「あれ、ももぉどこ行くのぉ?」
「ごめん朝美。やっぱり気分悪いの治らなくて……私、帰るね」
「え、マジで?ユウは?」
朝美の横にいた男の子が声をかけてきたけど、「知らない」とだけ返した。
あの人の顔を、思い出す気にもなれなかった。
「あ、待ってよもも!」
引き止めようとする朝美の声も、スピーカーからの音にかき消される。
聞かなかったことにして、部屋を出ようとした──のに。
「もう帰んの?まだここに居てよ、“もも”」
ドアを開けた先に立っていたのは、茶髪の彼だった。
一瞬驚いたけれど気を取り直して、私は彼の横をすり抜けていくつもりだった。
それなのに。
「さっきはヒドいこと言ってごめん。もうちょっとだけでいいから、居てくんねえかな。俺……“もも”と話したいんだ」
「……私は何も話すこと、ないけど」
「いいじゃん、もも。ユウくんがせっかく、ももと居たいって言ってくれてるんだからさ~」
横から冷やかすように口を挟んできた朝美に、苛立ちを覚える。
これ以上、何を話すっていうの?
自分の気持ちを再確認した今、本気でここにいるのが苦痛だっていうのに。
けれど朝美にねちねち縋られ、去るに去れなくなった私は、でっかいため息を吐いた。
そして──
この時、気づくべきだったんだ。
ユウくんの表情が、強張っていたことに。
“何か”に怯えるような目を、していたことに。


