気まぐれヒーロー2




「わけわかんねえ。おかしいんじゃねえの?お前」



うん、そうだ。

頭おかしいんだ、私。

自分で『タマ』って言っちゃってる時点で、アブナイよね。


ペット扱いが、すっかり染みこんじゃってるけど。

いいんだ。


おかしいって自覚してるのに止められないくらいに、ヤバいくらいに──

好きなんだ。ジローさんが。


軽蔑した目で睨んでくる“赤の他人”の男の子のことなんか、どうでもよかった。



やっぱり苦しいことには、変わりない。

思い続けたってどうしようもないのも、わかってる。


それでも。
私の心にいるのは、ただ一人。


それだけは揺らがない事実。

今は、その気持ちに正直にいたかった。


だから私は無言のまま、“彼”の前から立ち去った。

背後から何か言われた気もしたけど、聞こえないフリをした。

とにかく、早くこの場から離れたかった。帰りたかった。


朝美達がいる部屋に戻ると、盛り上がってる二人の姿なんて目に入らなかった。
鞄を掴んで、そのまま出て行こうとする。


「あれ、ももぉどこ行くのぉ?」

「ごめん朝美。やっぱり気分悪いの治らなくて……私、帰るね」

「え、マジで?ユウは?」


朝美の横にいた男の子が声をかけてきたけど、「知らない」とだけ返した。


あの人の顔を、思い出す気にもなれなかった。


「あ、待ってよもも!」


引き止めようとする朝美の声も、スピーカーからの音にかき消される。
聞かなかったことにして、部屋を出ようとした──のに。



「もう帰んの?まだここに居てよ、“もも”」



ドアを開けた先に立っていたのは、茶髪の彼だった。

一瞬驚いたけれど気を取り直して、私は彼の横をすり抜けていくつもりだった。


それなのに。



「さっきはヒドいこと言ってごめん。もうちょっとだけでいいから、居てくんねえかな。俺……“もも”と話したいんだ」

「……私は何も話すこと、ないけど」

「いいじゃん、もも。ユウくんがせっかく、ももと居たいって言ってくれてるんだからさ~」



横から冷やかすように口を挟んできた朝美に、苛立ちを覚える。


これ以上、何を話すっていうの?


自分の気持ちを再確認した今、本気でここにいるのが苦痛だっていうのに。

けれど朝美にねちねち縋られ、去るに去れなくなった私は、でっかいため息を吐いた。



そして──

この時、気づくべきだったんだ。


ユウくんの表情が、強張っていたことに。


“何か”に怯えるような目を、していたことに。