気まぐれヒーロー2




この人……私の何を、知ってるの?

何も知ろうとしなかったくせに。
私の言葉を、聞こうとはしなかったくせに。


化粧して髪をセットして、スカート短くして。

外見だけ変わった私を──

『気に入った』?


私はまだ、この人の前じゃ“私”を見せてもいないのに。


ただの“他人”。
一言二言、交わしただけ。


顔は知ってる。
それだけ。


私にとってこの人は、それだけの存在だった。



「いいだろ?」



いつの間にか、目の前まで距離を詰めてきていたユウくんが、低く囁いた。

後ろに下がろうとした私を、無機質な壁が阻む。
背に感じる硬質な感触に、しまったと思った時にはもう遅かった。


少し屈んだ彼と、目が合う。

顔を僅かに傾けて、唇を寄せてくる。


どうにかなりそうだったんだ。

キスされそうになって──私の中で、何かが弾けた。



「いやっ!!」



先に体が動いた。
彼を力の限り、突き飛ばしていた。


衝撃でよろめいた彼は一歩、二歩と下がり、信じられないものを見るような顔で眉をしかめ、私を射抜いた。


「……何すんだよ」


さっきの甘い声とは打って変わって、ユウくんは唸るような声音で、私を威嚇してきた。

まさかこんな仕打ちを受けるとは、夢にも思っていなかったんだろう。

きっと彼は女の子に拒絶されたことなんて、ないんだ。


その目には、“お前みたいな女をせっかく相手にしてやってるのに”とでも言いたげな色が、ありありと浮かんでいた。


わかってたから。
誰でもよかったこと。


今、彼女がいない。

理由は、それだけ。


そして私も……こんな人を愛したくなんか、なかった。




“タマ”




優しい声が

穏やかな声が


頭の中に蘇って、私を満たす。


唯一、私に安らぎを与えてくれる声。


大好きな人の──声。