この人……私の何を、知ってるの?
何も知ろうとしなかったくせに。
私の言葉を、聞こうとはしなかったくせに。
化粧して髪をセットして、スカート短くして。
外見だけ変わった私を──
『気に入った』?
私はまだ、この人の前じゃ“私”を見せてもいないのに。
ただの“他人”。
一言二言、交わしただけ。
顔は知ってる。
それだけ。
私にとってこの人は、それだけの存在だった。
「いいだろ?」
いつの間にか、目の前まで距離を詰めてきていたユウくんが、低く囁いた。
後ろに下がろうとした私を、無機質な壁が阻む。
背に感じる硬質な感触に、しまったと思った時にはもう遅かった。
少し屈んだ彼と、目が合う。
顔を僅かに傾けて、唇を寄せてくる。
どうにかなりそうだったんだ。
キスされそうになって──私の中で、何かが弾けた。
「いやっ!!」
先に体が動いた。
彼を力の限り、突き飛ばしていた。
衝撃でよろめいた彼は一歩、二歩と下がり、信じられないものを見るような顔で眉をしかめ、私を射抜いた。
「……何すんだよ」
さっきの甘い声とは打って変わって、ユウくんは唸るような声音で、私を威嚇してきた。
まさかこんな仕打ちを受けるとは、夢にも思っていなかったんだろう。
きっと彼は女の子に拒絶されたことなんて、ないんだ。
その目には、“お前みたいな女をせっかく相手にしてやってるのに”とでも言いたげな色が、ありありと浮かんでいた。
わかってたから。
誰でもよかったこと。
今、彼女がいない。
理由は、それだけ。
そして私も……こんな人を愛したくなんか、なかった。
“タマ”
優しい声が
穏やかな声が
頭の中に蘇って、私を満たす。
唯一、私に安らぎを与えてくれる声。
大好きな人の──声。


