「でさぁ、俺のツレがこないだバイト先でヘマやったらしくてさ──」
「……うん」
スピーカーから流れる流行りの曲。大音量の低音が腹の底に響く、照明の少し暗い室内。
朝美は黒髪の“ヒロくん”と身を寄せ合い、二人で歌う曲を選んでいた。
私の横には、茶髪の“ユウくん”。
さっきから笑顔で話しかけてくれるけど……正直、もう疲れていた。
この人……自分のことばっかり。
自分の話しかしてない。
会話のキャッチボールなんて成立していなくて、私はただ相づちを打つばかりだった。
私を知ろうとなんて、していない。
そしてそれは、私も同じだった。彼に対して、何の興味も湧かなかった。
空っぽの笑顔。空っぽの、心。
自分では笑ってるつもりでも、きっと目は、笑っていない。
ユウくんはそんなことにも、気づいていないだろう。
私は……どこにいるの?
私の心は、どこにあるの?
朝美の高い声が。
ユウくんとヒロくんの、笑い声が。
部屋中にガンガン響く音楽が──
頭の中で暴れまわる。
ぐわんぐわんして……酔いそう。
「ももぉ、歌わないのぉ?」
「ん、……ごめん。ちょっと気分悪いから、トイレ行ってくる」
「え~、ダイジョーブ?」
「うん、大丈夫」
無理やり笑顔を作ってみせ、私は部屋を出た。
「私……何やってんの……?」
誰もいないトイレ。
喧しい音から逃れられて、少し気分は楽になった。
一人になれて安心してる。
鏡の前に立って、“私らしくない”私と見つめ合いながら、か細く呟いた。
外見だけじゃない。
本当は笑いたくなんかないのに、彼らの前で笑ってる私も……嫌いだった。
無理して周囲に合わせてる自分が、大嫌いだった。
こんな時に思い浮かべるのは、あのカラフルなヤンキーレンジャー達で。
“彼ら”だって、似たようなものなのに……でも他の人と接してみて初めてわかったんだ。
“彼ら”がどれだけ、私を思いやってくれていたかってこと。
本当は……すごく優しかったってこと。
私が居心地悪くないように、無理しないで済むように。
いつだって、そういう空気を作ってくれていた。
自然と、私が私らしくいられるように──。
不意に、“みんな”が懐かしくなって。
帰りたくなった。
もう時間も遅いし、お母さんも心配するだろうし……帰ろう。
そう決めて、トイレを出たら
「“もも”、大丈夫?気分マシになった?」
外で、ユウくんが待っていた。


