「ねえねえ、二人ともこれから空いてるぅ?」


小春と帰る準備をしていると、いきなり朝美が話しかけてきた。


「私は今日早く家に帰らないといけないから……ごめんね」

「そうなのぉ?じゃあまた今度遊ぼうねぇ。ももはぁ?」


小春が断ると、朝美はすぐに私の方へすり寄ってきた。


「え、私は……何もない、けど」

「ほんとぉ?よかった~。ももに付き合ってほしいとこ、あるんだぁ」

「……」


明らかに、怪しい。

朝美からお誘いを受けるなんて、珍しいことだし……「んふふ」と妙に含みのある笑みを浮かべる女王様が、気味悪くて仕方がない。


「じゃ、こはるん☆もも借りてくねぇ」

「あ、う、うん。また明日ね、ももちゃん朝美ちゃん」


不安げな小春に見送られながら、私はほとんど強引に朝美様に引っ張られ、学校の外へ連れ出された。


「ちょっと待ってよ朝美、どこ行くの!?」

「いいからいいからぁ」


軽い足取りの朝美の後について行くも、どこを目指しているのか教えてくれない彼女に、不信感が募っていく。

何か、変。絶対何か隠してる。

朝美と二人で出かけるのなんて、初めてなんだもん。


仕方なく並んで歩いていると、どうやら朝美は駅前に向かっているようだった。

放課後の駅前は色んな高校の生徒であふれかえっていて、はしゃぐ声と楽しそうな笑い声がそこかしこに響いている。

みんな、笑顔だ。


でも私はそんな風に笑えなくて。
朝美にじーっと、疑いの目を向けるばかりだった。


考えなきゃいけないことが多すぎて、心は晴れない。表情も曇る。


「も~、そういう顔してるとこっちまで不幸が移りそうなんだけどぉ」


ふっ。
この女、どうしてくれようか。

悶々としていると、朝美は人で賑わうファーストフード店へ入っていった。


「アサミ、席空いてるか見てくるからぁ、ももはレジ並んでてね~」


私が返事をする間もなく、朝美はとっとと二階へ上がっていってしまった。

仕方なく言われた通りにレジに並んでいると、注文の番が回ってくる頃に、ちょうど朝美が降りてきた。
私はジュースを、朝美はジュースとポテトを頼んで、二人で二階へ上がる。

朝美に窓際の四人掛けの席に案内され、腰を下ろした──ものの。


「……あんた、なんで私の隣に座るの」

「んふふふ~、ちょっとねぇ」


すんごい怪しいんですけど!?

何なの、そのイライラする笑みは!!


朝美アレルギーにムズムズしていると、


「や〜ん、ももの顔ちょーこわぁい」


一段とくねくねしている朝美様が口を尖らせながら、そんなことを言い放った。


危うく手に持っていたジュースの紙コップを、握りつぶすところだった。