「あ、ももちゃん、おかえり!!」


教室に帰ると、小春の笑顔が真っ先に目に入った。

その次に、クラスメイトたちの痛い視線がぞろぞろと追いかけてくる。

ハイジにあんな形で連れ去られた私へ向けて。


「無事やった~?アイツに何もされんかった?」


冗談めかして声をかけてくるのは、ケイジくん。

よかった。まだ、小春といてくれた。
私がいなくなってからも、小春を守っていてくれた。


だけど多分。
あの緑と、双子な彼は。
アイツをよぉく知っているであろう、彼は──


「ん?どしたん、怖い顔して」


やけに挑発的な瞳で、私を見てくる。

そう。彼らしい、挑発的で確信めいた、瞳。


「……何でもない」


言わなくたって、ケイジくんならきっとわかってるはず。

少しだけつんっとして返すと、彼は可笑しそうに口元を緩めた。


「ま、それはそうとして。俺そろそろピークやし、交代な」

「へ?」


眠たそうに大あくびをしながら、ケイジくんが私の前まで歩いてきて、片手を上げる。
その仕草につられて、私も反射的に手を上げた。

ぱちん、とハイタッチ。

……交代?


そのままケイジくんは自分の席に戻ると、いつものように突っ伏して寝てしまった。

よっぽど眠たかったんだろう。
きっと、バイトやら何やらで、疲れてるんじゃないのかな。

それなのに、私が戻ってくるまでちゃんと起きていてくれた。

すやすや夢の世界に旅立った彼に、心の中でお礼を言っておいた。


そんなこんなで、ケイジくんのおかげで特に波乱もなく、一日が終わった。

陰口叩かれるのも、ウザったそうに見られるのも、周りの環境は変わらない。


でも、私はもう一人ぼっちじゃない。

心の持ちよう一つで、世界の見方はこんなにも違うんだ。

怖い気持ちはまだあるけれど、それでも、下じゃなく前を見て歩こうと思った。