気まぐれヒーロー2




息も絶え絶え、額に脂汗を滲ませながら必死に痛みを堪えているハイジは、まさに瀕死状態だった。

さすがにこれはヤバかったかもしれない。

女の私には、男のソレがどれだけの激痛を伴うものかなんて、知る由もないけれど。


「使いモンにならなくなったら、どーしてくれる……!!」

「そ、その方が世のため人のため、女のためよ」

「ほーお、言ってくれんじゃねーのももちゃん。ひとまず、試させてくれよ」


痛みに悶えているハイジは、それでもニィっと意地悪な笑みを浮かべ、私を見上げてきた。


私の本能が叫んだ。

『貞操の危機よ、逃げなさいももちゃん!!ケダモノよーきゃーきゃー』と。


だから逃げた。
ヤツを教室に残して。

背後から「ああっ!!お前、人の【ピー】蹴り上げといて逃げる気か!!なんて女だ、蹴り逃げか!!待ちやがれ!!」と大声でお下品な単語を叫ぶアイツを完全無視して、ダッシュで逃げ出した。


ジローさんの耳センが欲しいと、切実に思った。


キライ。

あんな男、大っキライ。


改めて認識した。

アイツはやっぱり私の天敵だ。ほんとはドMのくせに。


……でも。

ハイジはあの美女を、知ってた?

あの人は……本当に、ジローさんの彼女なの?


“直接会って話せ”


もしも、ハイジが私を陥れようとしてたなら、どうしてあんなこと言ったんだろう。

それに、アイツの態度は人を嘲笑うような感じじゃなかった。
私が疑っていることに、むしろ嫌悪を表していた。

一体どういうこと……?
何がなんだか、わからない。


ジローさん……。

もう、私ジローさんに会えない。会いに行っちゃいけない。

あの冷酷な眼差しに射竦められたら、私は耐えられない。

ペットでもいい。
ペットだって、何だってよかった。

ジローさんの傍にいられるなら、それでよかったのに。


でも彼が拒否するなら、私にはどうすることもできない。


歩きながら想うのは、ジローさんの控えめな笑顔だとか優しい手の温もりだとか、そんなことばかり。
彼が、私の全てを占めていた。


どうやったら、諦められるの?

どうしたら、“好き”を捨てられるの?

それができたなら、楽になれるのに──。