息も絶え絶え、額に脂汗を滲ませながら必死に痛みを堪えているハイジは、まさに瀕死状態だった。
さすがにこれはヤバかったかもしれない。
女の私には、男のソレがどれだけの激痛を伴うものかなんて、知る由もないけれど。
「使いモンにならなくなったら、どーしてくれる……!!」
「そ、その方が世のため人のため、女のためよ」
「ほーお、言ってくれんじゃねーのももちゃん。ひとまず、試させてくれよ」
痛みに悶えているハイジは、それでもニィっと意地悪な笑みを浮かべ、私を見上げてきた。
私の本能が叫んだ。
『貞操の危機よ、逃げなさいももちゃん!!ケダモノよーきゃーきゃー』と。
だから逃げた。
ヤツを教室に残して。
背後から「ああっ!!お前、人の【ピー】蹴り上げといて逃げる気か!!なんて女だ、蹴り逃げか!!待ちやがれ!!」と大声でお下品な単語を叫ぶアイツを完全無視して、ダッシュで逃げ出した。
ジローさんの耳センが欲しいと、切実に思った。
キライ。
あんな男、大っキライ。
改めて認識した。
アイツはやっぱり私の天敵だ。ほんとはドMのくせに。
……でも。
ハイジはあの美女を、知ってた?
あの人は……本当に、ジローさんの彼女なの?
“直接会って話せ”
もしも、ハイジが私を陥れようとしてたなら、どうしてあんなこと言ったんだろう。
それに、アイツの態度は人を嘲笑うような感じじゃなかった。
私が疑っていることに、むしろ嫌悪を表していた。
一体どういうこと……?
何がなんだか、わからない。
ジローさん……。
もう、私ジローさんに会えない。会いに行っちゃいけない。
あの冷酷な眼差しに射竦められたら、私は耐えられない。
ペットでもいい。
ペットだって、何だってよかった。
ジローさんの傍にいられるなら、それでよかったのに。
でも彼が拒否するなら、私にはどうすることもできない。
歩きながら想うのは、ジローさんの控えめな笑顔だとか優しい手の温もりだとか、そんなことばかり。
彼が、私の全てを占めていた。
どうやったら、諦められるの?
どうしたら、“好き”を捨てられるの?
それができたなら、楽になれるのに──。

