ただただ、悲しかった。
この“傷”の数だけ、彼が死を願ったということ。
死を恐れず、それどころか、生きることを手放そうとしていた人だから。
だから、何からも逃げなかった。
命を狙われたとしても。
「……ジローは、女も克服しようとしてた。けど無理なんだよ。ソイツ、女に触れねえ。触られんのもダメだ。どうにもなんねえ」
淡々と言葉を続けるタイガの顔は見えない。
見えるのは、彼の背中と、ゆらゆらと立ちのぼる白い煙だけ。
今はただ静かに目を閉じているジローさんを、抱きしめたくなった。
胸を締めつけるこの切なさに、思わず強く抱きしめたくなった。
「ソイツはもう、女を抱けねえ……トラウマのせいでな」
タイガはさらに続ける。
“それが男にとってどれだけの意味を持つか、わかるか”
その声はだんだん低く、色を失っていった。
気づけば私は衝動のままにジローさんの手を掴み、その手を両手で包み込んでいた。ぎゅっと、強く。
今は少しだけ冷たい、その手を。
目の奥が、鼻の奥が、つんと熱くなる。
泣き出しそうになるのを、必死で堪えた。
“俺のそばにいてくれ”
彼が私を抱きしめながら囁いた、その言葉。
その裏に隠されていた寂しさ。孤独。痛み。
そして……死にたいほどの絶望を知ってしまった時。
胸が、引き裂かれそうになった。
何をされたの?
誰が、したの?
誰が、あなたを暗闇に引きずり込んだの……?
「もも、オメーだけだ。ジローがそんなんでも離れていかなかった女は」
ようやくタイガが、こちらへ顔を向ける。
その眼差しは、静かな優しさに満ちていた。
「ずっとバージン守り通してくれてて、良かったよ」
そして、余計なことまで添えてくれた。
守り通したわけじゃなく、単に誰からも相手にされなかっただけだとわかっていながら、わざと。


