なんかバカらしくなって、私はタイガから離れ、ソファーの向こうにあるベッドへ歩み寄った。
まだ目覚める気配のない、ジローさん。
全身に冷えピタを貼られている。
鼻に詰められたティッシュをそっと取ってあげれば、鼻血はもう止まっていた。
大丈夫かな。
タイガよりはマシだけれど、顔が傷だらけでも。
それでも、彼は綺麗だと思う。
長い睫毛が、下まぶたに柔らかい影を落としている。
私はベッドの横でしゃがんで膝を床につけたまま、しばらくその寝顔を見つめた。
こうしてると、何だか落ち着くから。
そのとき──
部屋が、急に静かになった。
さっきまで流れ続けていた淫らな雑音が、ぱたりと途絶え、代わりに「シュッ」とライターの火がつく音だけが妙に響く。
タイガがテレビを消したんだ。
背中に目をやれば、彼の肩越しに薄い白煙がゆらゆらと上がっている。
タバコを吸っているんだと、すぐわかった。
こうして、彼は空気を冷たくしてしまう。
灰色に淀んで沈む。
さっきの軽口はわざとだったんじゃないかと思わされるくらいに。
そんな予兆もなく、問いかけることさえも許さず。
「オメー、何か聞きてえコトがあんじゃねえのか」
背を向けたままの声なのに、私の血まで冷えていく。
タイガがこちらを見ずとも、虎の目に貫かれなくても、その背中には十分な圧があった。
聞きたいこと。
タイガに、聞きたいこと。
漠然とした問いに、視線の先の金色を、この目に留めた。
いつも光を集める色。
太陽の下でギラギラと輝きを放つその様は、まるで彼そのもののよう。
金と銀。
太陽と月。
タイガとジローさんは、背中合わせで立っているように思える。
真逆だからこそ、成立している関係。
足りないものを、互いに補っているから。
聞きたいことなんて、ありすぎる。
ありすぎて、どれから言えばいいのかもわからない。
そもそも、聞いていいのかすらわからない。


