「私、知ってるんだよ?見たんだから。ジローさんがすごく綺麗な女の人と一緒にいるとこ。あの人……彼女なんでしょ?」
「……女?」
「とぼけないでよ、あんただってホントは知ってたんでしょ!?知ってて私にあんなことやらせて、影であの人と一緒に笑ってたんでしょ……!!」
私が私じゃないみたいに、湧き上がってくる激しい思いに突き動かされていた。
こんな風に取り乱すのも──
“裏切られたくない”
その恐怖に、勝てないから。
ハイジにあたりながらも、私は縋っていたんだ。
どこかで、期待してた。
私の言葉を、ハイジは否定してくれるんじゃないかって。
「お前さぁ……マジで救いようのねえバカだな」
でも、返ってきた答えは、甘くはなかった。
私は我を忘れて、片手を振り上げていた。
パシンって乾いた音が、教室に響く。
手のひらが、ジンジンする。
人を……初めて、ぶった。
「ってえ……」
「、あ……」
うわ、や、やっちゃった!!
ハイジのほっぺた、平手打ちしてしまった!!
鬼みたいな形相で睨みつけてくるハイジ。
ジローさんに殴られた頬とは反対側を叩いてしまったもんだから、ヤツの顔はすっかり悲惨なことになっていた。
「てめえ……」
凄んでくるハイジに、私も顔を引きつらせて後ずさるしかなく。
ぐいっと腕を掴まれて、「ひっ」って声が漏れた。
緑の悪魔に殺される。
いや、またセクハラ攻撃にあうかも……。
冷や汗が止まらなかった。
「気が済んだか」
「……はい?」
思いもよらない言葉に、私は目を瞬く。
絶対何かしらの制裁を受けると、覚悟していたのに。
「これでお前の気が済んだんなら、行くぞ」
「え?どこに?」
「その女んトコだ」
「はあ!?な、なんで!?」
「会って直接話せ。その方が早ェ」
ビクビクとすっかり小心者になってしまった私を、引きずっていこうとするハイジ。
いや、ちょっと待った。
このいきなりの展開は何!?
今からあの美女とご対面!?
何のために……!!
「や、やだ!放して!!」
「お前、この俺にビンタくらわしといて何だその態度は」
「だってあんたが私を……」
「だから行くんだろうが!ごちゃごちゃ話すより、そっちの方が手っ取り早ェんだよ!!」
やだもう……何考えてんの!?
なんで私が、ジローさんの彼女と会わなくちゃなんないの?
会って、何を話せっていうの?
「やだってば!」
「っぐ、……おま、……!!」
二人で散々取っ組み合いになった末。
ハイジが急に、膝から崩れ落ちた。
「貴様、何てことを……!!」
「わ、ご、ごめん……」
どうやら、暴れまくった拍子に。
私の膝蹴りが……このグリーンボーイのゴールデンボールに、直撃してしまったらしい。
思いっきりハイジの急所に、ダメージを与えてしまった。

