「痛い、ですか……?」
痛いはずなんて、ない。
そんなこと、わかってる。
もうとっくに治ってしまっているもの。
だけど消えることのないこの傷は、体だけじゃなく、あなたの心の奥まで裂いてしまったんじゃないかって思う。
“誰か”の手によってつけられたそれが、あなたを今日まで苦しめてきたんじゃないかって。
これからも、その傷と一緒に苦しみを引きずり、黒い影に足を掴まれながらも歩んでいかなければならないのかと思うと……どうしようもなく、切なくなる。
「俺のそばにいてくれ」
もう何だっていいとさえ思ってしまいそうになる。
私を強く、抱き締めるから。
その腕で絡め取ろうとするから。
耳元で落とされる声は、今にも消えてしまいそうで。
私の全てを投げ打ってでも、あなたのそばにいたいと心が叫ぶ。
怖いの?
今にも底なしの闇に落ちてしまうことを、あなたは恐れているの?
見せまいとしても、彼の言葉の端々に滲み出ている。
昨日で、全てが終わったわけじゃなかった。
そんなに簡単に打ち払えるほど、浅い闇じゃなかった。
「俺は、アイツみたいにはできねえ。アイツみたいに……激しくは、できねえ」
こんなに近くにあなたを感じているはずなのに。
「お前が、俺じゃなくて」
私は、あなたの腕の中にいるはずなのに。
「アイツのとこに──いっちまうんじゃないかって」
どうして、あなたの温もりはこんなにも……儚いんだろう。
ハイジは、荒れ狂う吹雪にも叩きつける豪雨にも、決して揺らがない、炎のよう。
屈しない。退かない。臆さない。
風切灰次という男は──
理屈じゃなくただ本能のままに、否応なく惹かれる存在。
横暴にも見えるその強引さが、ときには救いの扉をこじ開ける。
ジローさんも、口にした。
“激しさ”
こんなにも、ハイジを表すのにぴったりな言葉はない。
その燃え盛る業火のような激しさに、あてられて、囚われて、攫われてしまう。
それが、風切灰次だった。


