気まぐれヒーロー2




自嘲の色を帯びたその声音に、トクンと、鼓動がひときわ大きく跳ねた。

定まらなかった視線を、彼の鎖骨から唇、そして……真っ直ぐな瞳へと慎重に辿らせていく。


彼の視線と重なった瞬間、どうしようもないほど胸が締めつけられた。



「俺のことだけ、考えてくれてりゃいいと思ってた。他の男を入り込ませる隙なんて、作らせたくねえって。けど──」



やめて。

そんなふうに、笑わないで。

そんな哀しそうな顔で、笑わないで……。



「結局、アイツのことを考えさせちまってる。お前ん中に俺じゃなくて、アイツがいる。……バカみてえだな」



違う。

ずるい。


だってほら……もう、誰も入り込めない

あなた以外、誰も。


そうやって私のココロもカラダも、魂ごとさらっていってしまう。

人前では絶対に見せないあなたの表情に、堕ちるのは簡単なことだった。


ねえ、ジローさん。

あなたは何に、不安を抱いているの……?


彼が浴室に入ってきた時、私は見てしまった。


ジローさんの体に刻まれた、無数の傷跡を。


腕にも。
肩にも。
胸にも。
腹にも。

きっと……背中、にも。

……それより下は、私のような者が踏み込んではいけない領域なので、割愛させていただくとして。

彼の全身に、消えることのない傷が刻み込まれていた。

昨夜のタイガとの“喧嘩”でできた新しい傷じゃなくて、長い年月をかけて、彼の身体と同化してしまったような古傷が。


まるで、生まれた時から在ったみたいに。
身体の一部だと言わんばかりに。

鋭い刃で裂かれた跡。
獰猛で邪な炎に、噛みつかれた牙の跡。



“コレ、根性焼きっての。タバコの火を皮膚に押しつけんだよ”



前に彼が教えてくれた。

初めて『おさんぽ』に行った、あの日。


屋上で。
太陽が微笑んで、ぬくい風が毛布みたいに包んでくれた、のどかな午後。

世界中が平和なんじゃないかって錯覚させられるくらい、穏やかな流れのなかで。


彼は笑って教えてくれた。
空虚に濁った瞳で。



“ツギハギだらけの人形みてえだって、自分の体見るたび思う”



悲しい言葉を、落とす。


あの時は、何もわからなかった。

あなたに日々想いを募らせることも、こんな風に同じ時間を過ごすことも。

その頃の私には、頭の隅にもなかったことだった。


でも今は──


「っ、」


つうっと、彼の肩口から背中へと細長く伸びる傷を、指先でなぞる。

ほんの、何気ない動作。

ぴくりと彼の身体が揺れた。

私の指に、反応するように。