自嘲の色を帯びたその声音に、トクンと、鼓動がひときわ大きく跳ねた。
定まらなかった視線を、彼の鎖骨から唇、そして……真っ直ぐな瞳へと慎重に辿らせていく。
彼の視線と重なった瞬間、どうしようもないほど胸が締めつけられた。
「俺のことだけ、考えてくれてりゃいいと思ってた。他の男を入り込ませる隙なんて、作らせたくねえって。けど──」
やめて。
そんなふうに、笑わないで。
そんな哀しそうな顔で、笑わないで……。
「結局、アイツのことを考えさせちまってる。お前ん中に俺じゃなくて、アイツがいる。……バカみてえだな」
違う。
ずるい。
だってほら……もう、誰も入り込めない
あなた以外、誰も。
そうやって私のココロもカラダも、魂ごとさらっていってしまう。
人前では絶対に見せないあなたの表情に、堕ちるのは簡単なことだった。
ねえ、ジローさん。
あなたは何に、不安を抱いているの……?
彼が浴室に入ってきた時、私は見てしまった。
ジローさんの体に刻まれた、無数の傷跡を。
腕にも。
肩にも。
胸にも。
腹にも。
きっと……背中、にも。
……それより下は、私のような者が踏み込んではいけない領域なので、割愛させていただくとして。
彼の全身に、消えることのない傷が刻み込まれていた。
昨夜のタイガとの“喧嘩”でできた新しい傷じゃなくて、長い年月をかけて、彼の身体と同化してしまったような古傷が。
まるで、生まれた時から在ったみたいに。
身体の一部だと言わんばかりに。
鋭い刃で裂かれた跡。
獰猛で邪な炎に、噛みつかれた牙の跡。
“コレ、根性焼きっての。タバコの火を皮膚に押しつけんだよ”
前に彼が教えてくれた。
初めて『おさんぽ』に行った、あの日。
屋上で。
太陽が微笑んで、ぬくい風が毛布みたいに包んでくれた、のどかな午後。
世界中が平和なんじゃないかって錯覚させられるくらい、穏やかな流れのなかで。
彼は笑って教えてくれた。
空虚に濁った瞳で。
“ツギハギだらけの人形みてえだって、自分の体見るたび思う”
悲しい言葉を、落とす。
あの時は、何もわからなかった。
あなたに日々想いを募らせることも、こんな風に同じ時間を過ごすことも。
その頃の私には、頭の隅にもなかったことだった。
でも今は──
「っ、」
つうっと、彼の肩口から背中へと細長く伸びる傷を、指先でなぞる。
ほんの、何気ない動作。
ぴくりと彼の身体が揺れた。
私の指に、反応するように。


