ジローさんは、ぴくりとも表情を変えない。
黒い闇に塗りつぶされた瞳で……ただ私を見据えるだけ。
似ている。あの時と。
昨日、黒鷹のメンバーが集う場所で──
“死”という鎖にがんじがらめにされて、抜け出せなかった彼の瞳に。
「ハイジって……あのハイジですか?緑のまりもっこりの?」
私ももう、とぼけたりはぐらかしたりするのをやめて、見つめ返した。
彼の暗い瞳を。
……だけど、こぼれるのは笑いばかりで、なに言ってるんですかって。
唐突すぎるジローさんの問いに、首を傾げるしかなかった。
どうして、ここでハイジが出てくるんだろう。
何を思って、ハイジと私を結びつけるんだろう。
彼の目を探っても、その答えは掴めない。
おかしくて口元を緩めてしまっていたけれど……それも引っ込めて、私も真剣な顔つきにならざるを得なかった。
ジローさんは、本気だ。
それぐらい、私にもわかる。
私の一挙手一投足を見逃さない、彼の目。
ざわざわと胸が急き立てられる。
「ハイジは……私の……」
何て言えばいい?
あなたは、何を望んでるの?
昨日、誓ったのに。
あなたと生きたいって。
今日、あなたも──
私の未来にいてくれると、約束してくれたのに。
“お前と生きる”
そう言ってくれたのに。
私の中にいるのは、ただ一人。
あなただけ。
伝わっていると思ってた。
だからこそ、『私と生きたい』と……あなたは願ってくれたのだと。
私だって、本当は問い返したい。
“あなたの中にいるのは、あの美しい女の人じゃないの?”
聞きたいけど、聞けない。
怖い。返ってくる答えを、受け止めきれる自信がない。
一緒にいられるだけでいい。
ペットでも、そばに置いてくれるならそれだけでいいなんて。
逃げ道を作って、閉じこもってる。
私とジローさんの関係って、何なんだろう。
この曖昧な関係にしがみついている自分がいる。
彼にはっきり位置づけされたくなくて、臆病なんだ。
ハイジは?
ハイジは、私にとって……どんな存在?
「……墓穴掘っちまったな」
不安でぐらつく気持ちに、答えを見つけられないでいると、ジローさんが静かに口を開いた。


