気まぐれヒーロー2




「だからって、何もここまでしなくても……」


きっと、私が彼に向ける瞳が、頼りなさげに映ったからかもしれない。

その頬を指でぎこちなくなぞれば、彼がふっと、笑った。
薄く、柔らかく。


「加減なんてしてたらケンカにならねえ。それじゃあ、つまらねえだろ」


音が息を潜めるこの空間で。
私とあなた、二人しかいないこの場所で。

交わす声だけが、緩やかな時間を作り出す。


「思いっきりどつき合ってりゃ、そのうちどうでもよくなってくる。ケンカってのはそういうもんだ。それがいい」


そう言って、ジローさんは笑ってくれる。

私には理解し難い世界だとしても。


私に向けてくれる、穏やかな瞳が好き。

たまにしか見せてくれない笑顔が好き。

それがどんなに……些細なものでもいい。


私の体温とあなたの体温が湯の中に溶け合って、同じ温もりが私たちを包みこむ。

まどろみそうになるほど、安らかで。

この胸の高鳴りが、あなたにまで届いてしまうんじゃないかって恥じらう気持ちが、わずかな距離を生む。


向かい合って、彼を見つめる私の視線には、冷めることのない熱が籠められて。

ジローさんが……優しい瞳で、受け止めてくれる。


彼は濡れた指で私の髪を梳くと、そのまま後頭部にまわされて支えられ……

自然な流れだったのかもしれない。

ジローさんは顔を少し傾け、ゆっくりと近づいてくる。

ほんの少し、戸惑いに身を(こわ)ばらせたけれど。

でも、そうすべきじゃないって思った。


二人の間の距離が無くなるにつれ、瞼を閉じた。


微かに唇に触れたのが、彼のそれだとわかってから──すぐに、深く重なった。


熱く柔らかな感触に、一瞬にして心も体も……何もかも虜になって、溺れてしまう。


だけど。



「今、お前の中にいんのは……誰?」



どこか思い悩むように唇を離した彼の言葉に、胸がざわめく。



「……アイツ?」



次に零れ落ちた一言と、寂しげな瞳が──

私の心を乱した。