気まぐれヒーロー2




“彼ら”と付き合いだしてから、感情を揺さぶられるのが激しくなっている。

私の中で、今までなかった『何か』が芽生えだしている。


誰のせい?

誰の、おかげ?


「……女は泣かさない主義じゃなかったの?」

「そうだな」

「ウソつき」

「嘘はついてねえ」


睨んでやろうと思って、顔を上げたのに。

ハイジは手を伸ばし、指先で私の涙を拭ってくれた。

その手つきが優しくて、温かくて。
まるでハイジじゃないみたいで、こそばゆかった。



「お前が泣くのは、俺のためじゃねえ。ジローちゃんのためだろ」



穏やかな声が、心地よく耳を打つ。

ハイジは真剣な眼差しで、私を見返してきた。



「惚れてんのか?……ジローちゃんに」



やっぱり優しい声で、私を包み込む。


わかってたくせに。

気づいてたくせに。

私がジローさんを好きだって知ってて、そんなことを聞くの?


やめてよ……私をこれ以上、揺さぶらないで。


あんたが意地悪だって、嫌っていうほど承知だけれど、人の気持ちを弄ぶヤツだなんて思ってない。


信じさせて。
そう、何度も胸の中で唱えてた。


私の心に遠慮なんかせず入り込んできたのは、あんたじゃない。

私に拒む暇さえ与えず、どんどん侵入してきて。
いつの間にか、私はあんたの前じゃ……“私”を隠せなくなってた。


ハイジ。

あんたのその優しさは、何?

あんたの心の奥には、何があるの?


何もかも悟ったような目で、私を見ないで。

私はあんたを知らないのに、全部知ったような目で──見ないで。



「ハイジ、あんた最初に言ったよね?『お前がジローちゃんの女嫌いを治せ』って。ねえ……」



だから、イライラするんだ。

私だけが、無知なままでいるのが。


ジローさんやハイジ……他のみんなの間にある繋がりの中に、私は入れるの?

入る資格が、ある?

こうやってイライラするのは、私自身に……なんだ。



「どうして、私を騙したの?」



言葉がこぼれ落ちた瞬間、ハイジの瞳から穏やかな光が消えた。

眉間に深く刻まれるシワ。険しい表情。


言っちゃいけなかったかもしれない。

でも、言わずにいられなかった。


底無しの沼にいつまでも足を取られたまま、前に踏み出せない自分が嫌いだったから。