“彼ら”と付き合いだしてから、感情を揺さぶられるのが激しくなっている。
私の中で、今までなかった『何か』が芽生えだしている。
誰のせい?
誰の、おかげ?
「……女は泣かさない主義じゃなかったの?」
「そうだな」
「ウソつき」
「嘘はついてねえ」
睨んでやろうと思って、顔を上げたのに。
ハイジは手を伸ばし、指先で私の涙を拭ってくれた。
その手つきが優しくて、温かくて。
まるでハイジじゃないみたいで、こそばゆかった。
「お前が泣くのは、俺のためじゃねえ。ジローちゃんのためだろ」
穏やかな声が、心地よく耳を打つ。
ハイジは真剣な眼差しで、私を見返してきた。
「惚れてんのか?……ジローちゃんに」
やっぱり優しい声で、私を包み込む。
わかってたくせに。
気づいてたくせに。
私がジローさんを好きだって知ってて、そんなことを聞くの?
やめてよ……私をこれ以上、揺さぶらないで。
あんたが意地悪だって、嫌っていうほど承知だけれど、人の気持ちを弄ぶヤツだなんて思ってない。
信じさせて。
そう、何度も胸の中で唱えてた。
私の心に遠慮なんかせず入り込んできたのは、あんたじゃない。
私に拒む暇さえ与えず、どんどん侵入してきて。
いつの間にか、私はあんたの前じゃ……“私”を隠せなくなってた。
ハイジ。
あんたのその優しさは、何?
あんたの心の奥には、何があるの?
何もかも悟ったような目で、私を見ないで。
私はあんたを知らないのに、全部知ったような目で──見ないで。
「ハイジ、あんた最初に言ったよね?『お前がジローちゃんの女嫌いを治せ』って。ねえ……」
だから、イライラするんだ。
私だけが、無知なままでいるのが。
ジローさんやハイジ……他のみんなの間にある繋がりの中に、私は入れるの?
入る資格が、ある?
こうやってイライラするのは、私自身に……なんだ。
「どうして、私を騙したの?」
言葉がこぼれ落ちた瞬間、ハイジの瞳から穏やかな光が消えた。
眉間に深く刻まれるシワ。険しい表情。
言っちゃいけなかったかもしれない。
でも、言わずにいられなかった。
底無しの沼にいつまでも足を取られたまま、前に踏み出せない自分が嫌いだったから。

