「どう、して……?」
かろうじて落とした声が、自分のものじゃないみたいに頼りなくて。
自分が見ている世界が現実なのか。自分がどこに立っているのか。
それすらも、区別がつかなくなりそうだった。
私を惹きつけてやまない薄茶の瞳。
大好きな彼の銀髪とその中でわずかに差し込む黒が、私の世界を彩る。
沈黙を貫いたまま、感情も読めないまま……彼は私を見つめてくる。
ぴちょん、と蛇口から落ちた水滴の音が、やけに大きく響いた。
絡み合う視線を解いて、下へずらすと──
鎖骨のライン、意外にも幅があって逞しい肩、細身に見えても程よく筋肉がついた胸板と腹筋。
その全部が、これでもかといわんばかりに男の色香を纏っている。
そのセクシーフェロモンにあてられた私は、目眩がしそうだった。
で、もうちょっと下にいくと……
ってダメだ!!
ソコは不可侵領域!!未知のセカイ!!ジャングル!!フェロモン密集地帯!!
わ、私みたいな初心者が見ちゃダメだ……!!
っていうか私……マッパだ!!!
マッパなんだがっ!!!
普段の私からは信じられない速さで、乳白色のお湯の中へ慌てて逆戻りしたけれど。
ジローさんにはしっかりと、見られてたはず。
私、胸ないのに……貧相で、女としては残念な体型なのに……。
ジローさんのほうが、よっぽど色気があってドキドキしちゃう……。
ショックすぎる。
ジローさんが鼻血も噴かず普通にしてるのが、何より私のフェロモンが枯れてる証拠……。
私、まだ15歳なのに……この時点で干からびてたら、もう先の人生なんて梅干し同然。
残された余生、しわしわの梅として生きていかなきゃいけないなんて……せめて最後には、弁当のご飯のうえで主役を張って死にたい。
「ジローさん、あの、私もうあがるから……だから、外でもう少しだけ待っててくれませんか!?」
一糸まとわぬジローさんを直視できるはずもなく、彼に背を向けたまま湯船につかって、早口でまくしたてた。
けれど。
「…………」
後ろにいる彼から返事はなく、私の焦った声だけが浴室内に響き渡って、また静かな間が訪れる。
耐えきれず、そっと顔だけを動かし肩越しに彼を覗き見た。
すると無言のまま、ジローさんは……
「ちょ、えっ!?」
私のいる浴槽へと足を下ろし、躊躇うことなく腰を沈めた。


