「ふふっ」
いろいろ思い出して、ふっと笑いがこぼれた。
それが光沢のあるタイルの壁に反射して、静かに霧散していく。
一人で笑ってるこの光景は、ちょっと不気味かもしれない。
でも──どうせ一人なんだし、いいよね。
彼らと過ごすようになってから、毎日が濃くて、次から次へといろんなことが起こる。
最初はそれがイヤで仕方なかったのに。
今じゃ、そういうのも悪くないかもなんて思い始めてる。
疲れるし、神経すり減るし、ロクなことなんてないはずなのに。
それ以上に──
彼らの底知れない魅力に惹かれて、いつの間にか、離れたくないって思ってる自分がいた。
たとえこの先の道が、困難だとしても。
それでも進むって決めたのは、私自身だ。
彼らといると、大好きだったお兄ちゃんのそばにいるみたいな気持ちになる。
きっと彼らも、お兄ちゃんと志すものが同じだから。
だから、一緒にいたい。
「そろそろあがろうかな……」
人の家で、長風呂っていうのも悪いし。
立ち上がると、水面がゆらめいて、濡れた髪の先からぽたりと雫が落ちた。
脂っぽくて気持ち悪かった髪も顔も、洗ってサッパリした。
湯加減もちょうど良くて、あったまったし。
凡人じゃ一生味わえないような、最高級のラグジュアリー空間を貸し切らせてもらえたんだもん。
こんな贅沢、ジローさんと太郎さんに感謝しなくちゃ。
「ふぅ」と小さく息を吐いて、浴槽から出ようとした──そのとき。
「え……」
片足を上げたまま、私は硬直してしまった。
だって……
数メートル先の浴室のドアが、開いたから。
ひんやりとした冷気が滑り込んできて、肌をなぞっていく。
湯気が立ちこめて視界はぼんやりしているけど、人の気配ははっきり感じ取れた。
この湯気の向こうに、誰かがいる。
そして、ドアが静かに閉まる音がして。
ぼやけた視界のなかに、浮かび上がったのは──
男性の上半身。裸の。
入ってきたのは、男の人だった。
透明な縄で縛られたみたいに、体が動かない。
頭が追いつかなくて、何もできない私の目の前に。
その人はゆっくりと歩み寄ってきて、足を止めた。


