ジローさん……。
何しに、ここに来たんだろう。
どうして、この部屋に入ってきたんだろう。
ハイジ曰く、この教室はいかがわしい目的のための場所らしいのに。
──っていうか、そんな部屋を学校に作るんじゃないよ!!
こんな乱れた人たちと仲間になっていいのかと、早くも後悔しそうになった。
……まあそれは一旦、置いとくとして。
ジローさん、私とハイジがここにいるって、わかってたの……?
もしそうだとしても、どうしてわざわざ?
考えれば考えるほど、答えは闇に隠れて底なし沼みたいに沈んでいく。
残されたのは、私とハイジだけ。
「ったく……コレ腫れるな、絶対。またバカにされんじゃねーか」
グチグチ言ってるハイジに、ふと私は勘づいた。
「あんた、知ってたの?」
私が問いかけると、ハイジは顔を上げた。
コイツ……もしかしたらジローさんが来ること、わかってたんじゃないか。
彼が現れるのを見越して、私にあんなことしたんじゃないのか。
この男、意外と策略深いとこあるし。
そしてその狙いも……もし疑った通りだったら……。
「ねえ、満足?」
自嘲気味な笑みでそう言うと、ハイジは眉をひそめた。
「笑えば?これが目的だったんでしょ?」
私の中で、黒い感情が蠢く。支配されていく。
黙ったままのハイジに苛立ちが募って、矛先はヤツへと向けられていた。
「楽しかった?私をからかって、面白かった?ジローさんに可愛がられて浮かれてる私を、バカにしてたんでしょ?笑ってたんでしょ?よかったね、あんたの思い通りになって。ジローさんはもう私のことなんて、どうでもいいんだよ。これがあんたの計画だったんでしょ!?最後まで私は滑稽で、惨めで……」
止められなかった。
“自分”がどこにいるのかもわからなくて、感情のままに喚き散らす。
全部をハイジに押し付けて、疑心暗鬼になって、ぶちまけていた。
抱えていたものを、全部。
それなのに──
「お前……なんで、泣くんだよ」
ハイジは私が責めるのも、何でもないことのように受け止めて。
純粋で、どこか寂しそうな瞳で……私を、許すんだ。
止め処なく頬を伝う涙の熱さに、自分を恥じる。
「けっこうよく泣くよな、お前」
「……誰のせいよ」
それでもやっぱり私は、素直になれない。
私より子供だと思っていたコイツは私より大人で、悔しくて、自分の幼稚さに腹が立った。
ハイジの前で、涙を流すのは何回目?
いつから、こんなに弱くなったの?

