気まぐれヒーロー2




“じっとしてろよ、脱がせられねえだろ”


迷いもなく、躊躇の素振りすら見せずに──
彼の筋張った綺麗な長い指が、私の首元に柔らかく触れてくる。


そのまま下へと滑らせ流れるような動作で、彼は私のカッターシャツのボタンを一つ、外した。

片手だけで。

はだけた胸元にくっきりと浮き出る鎖骨が、外気に晒される。

彼の指はさらに一つ下、留められているボタンを器用に外していこうとする……けれど。


「ま、待ってジローさん、ちょっと待って!!」

「イヤだ。待つ理由がねえ」

「ありますあります!私、自分で脱げますから……!!」

「俺がやってやるっつってんだ」


なんで!?


無我夢中で彼の手から逃れようとしたって、すぐに追い詰められてしまう。


だってここは──なんとも煌びやかで豪勢なバスルーム。


照明はキラキラと輝いて、ほんのり淡いオレンジ色に空間が染まる。
洗面台も鏡もピッカピカで、反射した光があちこちで跳ね返る。
とにかく、手入れが行き届いている。

そして、なんといっても広い。広すぎ。

うちの洗面所じゃ人が二人すれ違うだけでも窮屈なのに、ここは十人入っても余裕で動けるほどのスペースがある。


どこの高級ホテルだってくらい。


そんな豪華絢爛な場所で逃げ惑うのは、私。

捕まえようとしてくるのは……ジローさん。


二人っきりの、空間。



「一緒に入るんだろ」



空調の音しか聞こえない静けさのなかで、ジローさんの低めで淡々とした声だけがやけに大きく感じられた。


逃げ回っていた私の背中に、トン、と何か堅いものが当たる。

……壁だ。

もう、下がれない。


正面には、ウルトラマンじゃなくなったジローさん。


逃げ場は、完全に塞がれた。


無表情のまま、ジローさんがゆっくりと近づいてくる。
そのたびに黒い影が、じわりと私を包んでいく。

まるで肉食動物に狩られる草食動物みたいに、私の鼓動はフルスピードでリズムを刻んでいた。


……あれ、タヌキって草食動物だっけ。

タヌキって、何食べるんだろ。


なんてどうでもいいことを考えてるうちに、完全に彼の影に飲み込まれていた。


ごくりと唾を飲み込み、視線を上へと這わせていけば……無感情な彼の瞳と、真正面からぶつかる。


再び、スッと私へ伸ばされるジローさんの手。

静かに、確実に忍び寄ってくる。



ピンチだ。

絶体絶命だ……!!