“じっとしてろよ、脱がせられねえだろ”
迷いもなく、躊躇の素振りすら見せずに──
彼の筋張った綺麗な長い指が、私の首元に柔らかく触れてくる。
そのまま下へと滑らせ流れるような動作で、彼は私のカッターシャツのボタンを一つ、外した。
片手だけで。
はだけた胸元にくっきりと浮き出る鎖骨が、外気に晒される。
彼の指はさらに一つ下、留められているボタンを器用に外していこうとする……けれど。
「ま、待ってジローさん、ちょっと待って!!」
「イヤだ。待つ理由がねえ」
「ありますあります!私、自分で脱げますから……!!」
「俺がやってやるっつってんだ」
なんで!?
無我夢中で彼の手から逃れようとしたって、すぐに追い詰められてしまう。
だってここは──なんとも煌びやかで豪勢なバスルーム。
照明はキラキラと輝いて、ほんのり淡いオレンジ色に空間が染まる。
洗面台も鏡もピッカピカで、反射した光があちこちで跳ね返る。
とにかく、手入れが行き届いている。
そして、なんといっても広い。広すぎ。
うちの洗面所じゃ人が二人すれ違うだけでも窮屈なのに、ここは十人入っても余裕で動けるほどのスペースがある。
どこの高級ホテルだってくらい。
そんな豪華絢爛な場所で逃げ惑うのは、私。
捕まえようとしてくるのは……ジローさん。
二人っきりの、空間。
「一緒に入るんだろ」
空調の音しか聞こえない静けさのなかで、ジローさんの低めで淡々とした声だけがやけに大きく感じられた。
逃げ回っていた私の背中に、トン、と何か堅いものが当たる。
……壁だ。
もう、下がれない。
正面には、ウルトラマンじゃなくなったジローさん。
逃げ場は、完全に塞がれた。
無表情のまま、ジローさんがゆっくりと近づいてくる。
そのたびに黒い影が、じわりと私を包んでいく。
まるで肉食動物に狩られる草食動物みたいに、私の鼓動はフルスピードでリズムを刻んでいた。
……あれ、タヌキって草食動物だっけ。
タヌキって、何食べるんだろ。
なんてどうでもいいことを考えてるうちに、完全に彼の影に飲み込まれていた。
ごくりと唾を飲み込み、視線を上へと這わせていけば……無感情な彼の瞳と、真正面からぶつかる。
再び、スッと私へ伸ばされるジローさんの手。
静かに、確実に忍び寄ってくる。
ピンチだ。
絶体絶命だ……!!


