ここにいるありとあらゆる人間が、
私の横にいるジローさんを、
私の前にいるハイジとケイジくんを、
求めてやまない。
彼らは、こんなにも多くの人の心を惹きつけてしまう。
もう私と田川の問題なんてどうでもよくて、みんなにとっては“あの白鷹ファミリーがバスケの試合をする”という事実のほうが重要らしい。
しかも、彼らが負ければ土下座という究極のオプション付き。
いつだって話題の中心にいて、
いつだって自由奔放に振る舞い、
いつも羨望の眼差しに囲まれて。
かと思えば、恨みや嫉妬を買うことだってある。
どんな時も、数多の人の目に晒され続ける“彼ら”。
そんな彼らが仕掛けた勝負に、みんなが食いつかないはずがない。
そりゃもう、学校全体を巻き込む大事件になるに決まってる。
さっきからずっと、スマホを構えて動画を撮っている人も、何人もいた。
一年生はもちろん事情を把握しているけど、何も知らない上級生はただ面白そうだからと、簡単に“観客”に回ってしまう。
お色気ムンムンなおねーさま方からは、背筋が凍るような視線をビシバシ飛ばされているけれど。
でも、そうなればもう取り返しがつかない。
こんな大事になるなんて、思いもしなかった。
ありえないほど沢山の生徒たちの視線と、口々に囁かれる無数の言葉が、私の足元を掬い、底無しの沼へと引きずり込んでいく。
急に怖くなって、どうしようもなくなった。
こんなつもりじゃなかった。
こんなはずじゃなかった。
ジローさんやハイジたちに、こんな大きなものを背負わせるつもりじゃなかったのに。
「やめよう、ハイジ……」
怖くて、仕方がなくて。
虚ろにそう一言、零して……
ハイジの腕に、手を添えていた。ぎゅって、掴んでた。
「やっぱり、やめよ……こんなの。いいよ、もう……」
「黙ってろ」
けれど、ハイジは私に振り向かない。
返ってくるのは、そんな素っ気ない言葉だけ。
だからといって、素直に引き下がれなかった。
私なんかのために、そこまでしてくれる──
その優しさだけで、もう十分だって。
言い聞かせてた。
「私、大丈夫だから。何ともないから」
「黙れって」
彼らの想いも何も感じようとはせず、
ただただ、自分のエゴを押しつけてばかりだった。
「もういいんだって!勝手なこと、しな──」
「ブチ切れそうなんだよ!!!」
次の瞬間、ハイジの怒鳴り声と、
非常ベルの側面を拳で叩きつけた硬い音が重なった。
ひ弱な私の言葉なんか、一瞬で掻き消される。
ガヤガヤとうるさい外野の談笑さえも。
そして──肩越しに私を射抜くハイジの眼差しに、胸の奥がぎゅっと固まった。


