ハイジは言った。
私に謝れって。
田川達に、そう言ってくれたんだ。
みんなに伝えるために。
私のために。
どうして、そこまでしてくれるの……?
「何に対して謝ればいいのか、わからないんだけど。でもまあ、いいよ。君たちに負けるとは思えないからさ」
徹底的にしらを切る田川。
もう慣れてしまったせいか、怒りも湧かない。
ハイジも同じだったのかもしれない。
妙に落ち着いていて、冷静に田川に告げた。
「決まりだな。勝負は一週間後。……あー、それともう一つ言い忘れてた。俺らはてめえら3人以外とやる気はねえ。3on3でやろーぜ」
ハイジが指した3人は、田川と同じバスケ部の一年生二人。
本城咲妃の取り巻きと一緒にいる、田川の友人たちだった。
あのとき裏庭で、タバコの火で私と小春を脅し、さっきパンを投げつけてきた、あいつら。
長い睫毛に縁取られた優しげな二重の目を細め、田川はその端整な顔に大人びた笑みを乗せた。
窓から流れるそよ風が、栗色の髪をふわりと揺らす。
光を反射してさらりと光るその髪は、女の子から羨ましがられるほど艶やかだった。
ハイジと並んでも背丈はほとんど変わらない。
たぶん田川も、180センチはあるんだと思う。
細身でも肩はしっかりしていて、制服の上からでも何かスポーツをしているんだろうとわかる。
その立ち姿も堂々としていて──
田川の本性を知らない子たちからすれば、まさに“王子様”なんだろう。
私だって、そうだった。
ほんの数週間前までは。
アイツに告白するまでは、『王子様』だって、憧れてた。
「わかった。一週間後の昼休み、体育館で。それでいいかな?」
「ああ。逃げんなよ、エース」
挑発的な姿勢を崩さないハイジに、
「そのセリフ、そのまま君に返すよ──“風切灰次くん”」
田川は、お得意の“優等生スマイル”で返した。
ざわざわと、周囲が騒がしくなっていく。
それまで息を潜めていた生徒たちが、再びお喋りを始めたからだ。
興奮を抑えきれないような声。
瞳の奥には“興味”と“好奇心”の光がいっぱいに広がっていた。
「ってわけだ、ジローちゃん。お楽しみが一つ増えたな」
ハイジがこちらにくるりと振り返る。
その目は活力に満ちていて、まるで山にカブトムシを捕りに行く少年のようで。
ウルトラマンジローを、しっかりと映し出していた。


