「んだよ、放せよてめーら。ヤロウに抱きつかれても嬉しかねーんだよ。だいたいよー、ひーちゃん」
まったく反省の色もなく、それどころか悪態をつきまくるタイガーマスク。
そんな悪虎は、なぜかバルタン飛野さんに狙いを定めた。
「さっきから何の役にも立ってねーじゃねーか、いるだけで。ただでさえバルタンは悪役だってのによォ。鳴き声の一つでも出して応援してやれよ」
自分も好き勝手やってるだけなのに、平然と飛野さんに言っていた。
そして……
「な、鳴き声?」
「そーだよ。バルタンってのは、鳴き声で仲間にパワーを与えちゃうんだよ」
バレバレの嘘をつくタイガに、嫌な予感がするのはなぜなんだろう……。
「鳴き声……バルタンの鳴き声……」
「ひ、飛野さん。騙されちゃダメですよ。別にバルタンは、鳴いて仲間をパワーアップさせちゃうような能力なんかないですから」
って教えたのに、飛野さんはまるで聞いておらず、ぶつぶつ呟きながら考え込んでいた。
待って。
まさか……いや、そんなはずがない。
そんなことになるわけがない。
だって飛野さんは大人だし、常識人だし、しっかりしてるし。
……ちょっぴり抜けてるとこはあるけれども。
でもちゃんと場を弁えてるし、硬派だし、純情だし、料理人だし……。
そうよ、ダイジョーブよ!!
いくらなんでも飛野さんが、そんなバカげたこと──
「ジリジリミンミンカナカナ、ツクツクホーシシャンシャンチーゲーキョ」
………………
………!?
言ったよ、言っちゃったよ!!
しかもナニソレ!?
ああ……飛野さん……。
「フ、ファ、……ファーハハハハ!!ウハハハハハ!!ギャハハハハ!!!なんだそりゃセミオールスターじゃねーか!!ウヒハハハハハ!!は、腹がイタイヨーぐるじーよー」
「…………」
タイガーマスクは床に倒れ込み、エビ反りになって笑い転げていた。
号泣しつつ凄まじい大爆笑で、引きつけ起こす寸前だ。
それをバルタン飛野さんは、とっても冷めた目で無言で見下ろしていた。
やっと騙されていたことに気づいたみたいだった。
そう、彼は純粋だったのだ。
どこまでもタイガの期待を裏切らない人だった。
全員がドン引きするなかで、タイガの狂ってんのかと思うほどの笑い声だけが、廊下に延々と木霊していた。
やがて飛野さんは「フヒフヒ」と笑い続けるタイガーマスクの首根っこをむんずと掴むと、ズルズル引きずりながら群衆を掻き分け、廊下の角を曲がり消えていった。
引きずられている間も爆笑していたタイガだったけれど、そのバカみたいな声も姿が見えなくなると徐々に小さくなり、やがて完全に聞こえなくなった。
こうして、タイガーマスクとバルタン星人は退場したのだった。


