気まぐれヒーロー2




我に返ったときにはもう──
私はアイツを壁に押しつけ、その胸ぐらを掴みあげていた。

涙をこらえようとすると、目の奥が熱くなる。

身長差のせいで、けっこう見上げなきゃいけないのが悔しい。

目に涙を溜めて睨みつける私は、きっと滑稽に見えただろう。


ハイジは冷ややかに、黙ったまま私を見下ろしている。

何を考え、何を思っているのか。

その黒い瞳は、霧で覆われるように感情を見せはしない。


イライラして、どうしようもないんだ。


わからないから。

いつも、振り回されてばかりだから。


自分が今、必死に守ろうとしてるものが何なのかさえ──

見失いそうになる。



「黙ってるだけだろ、お前」



急に仲間割れでもしたのかと、野次馬達が息を呑むなかで、ハイジが静かに口を開いた。

翳っていた瞳が、わずかに柔らかくなった気がした。


そこに、潤んだ目をした私が、映ってる。

必死で切羽詰まって、ギリギリの表情をしてる。


ハイジも、同じ私を見ている。



「いつか、わかってくれるとでも思ってんのか。そうやって、耐えてさえいればどうにかなると……本気で信じてんのかよ」



──なんで、そんな目をするの?

突き放すなら、いっそとことん突き放してくれればいいのに。


どうして、あんたは……

私の全てを受け入れてくれるような、目をするの。


自然と、指から力が抜けていく。

まるで自分のものじゃないみたいに、ゆっくりと……ハイジから手が離れていった。



「言ったよ……私、言った。そんなことしてないっ、て。私、田川のことなんか好きじゃない。本城さんから奪おうなんて思ってもないって……言ったのに。でも……」



みんなが、私を見ているのがわかる。


全身でひしひしと、感じるんだ。
無数の視線を。


俯きながら、声を絞りだす私を──

ジローさんも、タイガも、飛野さんも、ケイジくんも、ハイジも。

本城咲妃も田川も、取り巻きたちも、他の生徒たちも。


全員言葉を発しないまま、ただ静かに、私を見つめていた。