「次こんなマネしてみろ。何すっかわかんねーぞ、俺は」
今度こそ、鳥肌が立った。
ゾクゾクと悪寒が走るのを、止められない。
ハイジの、もう一つの顔。
野生の獣の本能が、目の前の男に宿る。
今はハイジの目を、見たくない。
“恐怖”を感じたくない。
腹の底まで響くような、低くドスのきいた声だけで……もう十分だった。
そうだ。
ハイジはたとえ女の子相手でも、優しくなんてしない。
相手が誰であろうと、態度を変えたりしない。
自分の妨げになったり邪魔だと判断したら、躊躇なく牙を剥く。
わかってたはずなのに……
私は心のどこかで、そんなハイジを認めたくなくて、見ないフリをしていた。
怖いんだ。
おバカでフザけてるアイツの方が、ずっといい。
私の前ではそっちの顔で、いてほしい。
だって、そうじゃなきゃ──
私に向ける意地悪な顔も、イタズラな笑みも、全てが嘘になってしまいそうで。
ハイジがわからなくなる。
それが、怖い。
床に転がったゴミ箱は側面がぼこぼこにへこみ、見るも無惨な姿をしていた。
ハイジに凄まれた女の子は、唇を震わせ、歯がカチカチと鳴るほど怯えきっている。
目の焦点も合っていなくて、まるで現実から飛んでしまったみたいだった。
今のハイジは、何をしでかすかわからない。
越えちゃいけない線まで、越えてしまいそうで危うい。
ヤツがここまで怒りを露わにしたのは初めてで、目の前の光景に頭がついていかなかった。
もし今、田川や本城咲妃がハイジの癪に障るようなことを言ったら──
今度こそ、大惨事になる。
気が気じゃなかった。
そんな私の視界の端っこで、何かがごそごそと動いた。
自然と目がそれを追い、確かめてみると──
ケイジくんが、ボコボコになったゴミ箱を屈んで拾い上げていた。
……何してるんだろう。
不思議に思って、見守っていると。
ケイジくんは両手でそれを構え、ハイジに近づいていって……
「えいっ」
なんとも軽い掛け声と共に、ハイジの頭めがけて、そのゴミ箱を振り下ろした。


