どこか試すような声音で、ハイジは田川に話を続けた。
きっと、この男は想定してなかったんだろう。
「お前、なんでそれを……」
田川の完璧なはずの鉄仮面が、僅かに綻んだ瞬間だった。
あの時──私が田川に告白した時。
あの場にいたのは、私と田川と本城咲妃の三人だけ。
田川はそう思っている。
でも、コイツは知らない。
本当はそのずっと前からハイジが、そこにいたこと。
最初から最後まで、全部聞いていたことを。
私だって気づかなかった。
田川と本城咲妃にズタズタに心を傷つけられて、二人が立ち去った後にハイジが現れるまで……ヤツの存在なんて、まるで感じなかった。
「花鳥、お前が言ったのかよ」
田川の仮面が、崩れようとしている。
眉を寄せて険しい顔をした今の田川には、いつもの優しげな王子様の面影なんて欠片もない。
その奥に隠していた本性が、少しずつ少しずつ、浮かび上がっていく。
“今の、ガチ?”
“ウソ……だって田川くんだよ?”
“でもさ、見て。なんかいつもと違くない?”
“え~……ホントだったら幻滅するんだけど”
“どっちが本当のこと言ってるの?”
廊下のあちこちから、そんなざわめきが上がった。
誰が見てもわかる。
表情も声のトーンも、もう“作りもの”じゃない。
飾り立てた仮面を脱いだ田川に、みんなが向けるのは──
疑惑の目。
人間というものは、一度疑いだすと、その不信感を簡単には拭えない。
ましてや集団となれば、なおさらだ。
感染するように、瞬く間に広がっていく。
“噂”の怖さを、私は誰よりもよく知っている。
動悸が速くなる。
胸の奥で心臓が暴れて、息を急かす。
苦しい。
苦しいけど……言い知れぬ興奮が、体中を駆け巡る。
それは決して心躍るようなものじゃなく、静かに脈打つ躍動感。
僅かに差す光。
息を潜める、不安。
どうなるのかわからない期待と戸惑いが、入り混じる。
私だけじゃ、覆すことなんてできなかった。
私一人の力じゃ。
だけど今、完璧だったはずの田川と本城咲妃の世界に、ヒビが入りかけている。
ハイジが、アイツらに揺さぶりをかける。
「こんなに可愛いのに」
ふと、ぽつんと誰かが呟いた。
私の隣で。
そちらに目を向けたら、ウルトラマンなジローさんが私を見下ろしていた。
ジローさん……
か、可愛いってなに!?
もしや、それ、私へのお言葉!?
わかんない、この人唐突すぎてわかりにくい……!!
無駄にドキドキさせないでほしい。
ただでさえ心臓くんが頑張ってくれてるのに、これ以上負担をかけたら息が止まりそう。


