気まぐれヒーロー2




どこか試すような声音で、ハイジは田川に話を続けた。


きっと、この男は想定してなかったんだろう。



「お前、なんでそれを……」



田川の完璧なはずの鉄仮面が、僅かに綻んだ瞬間だった。


あの時──私が田川に告白した時。

あの場にいたのは、私と田川と本城咲妃の三人だけ。

田川はそう思っている。

でも、コイツは知らない。


本当はそのずっと前からハイジが、そこにいたこと。

最初から最後まで、全部聞いていたことを。


私だって気づかなかった。

田川と本城咲妃にズタズタに心を傷つけられて、二人が立ち去った後にハイジが現れるまで……ヤツの存在なんて、まるで感じなかった。



「花鳥、お前が言ったのかよ」



田川の仮面が、崩れようとしている。


眉を寄せて険しい顔をした今の田川には、いつもの優しげな王子様の面影なんて欠片もない。

その奥に隠していた本性が、少しずつ少しずつ、浮かび上がっていく。



“今の、ガチ?”
“ウソ……だって田川くんだよ?”
“でもさ、見て。なんかいつもと違くない?”
“え~……ホントだったら幻滅するんだけど”
“どっちが本当のこと言ってるの?”



廊下のあちこちから、そんなざわめきが上がった。

誰が見てもわかる。
表情も声のトーンも、もう“作りもの”じゃない。
飾り立てた仮面を脱いだ田川に、みんなが向けるのは──

疑惑の目。


人間というものは、一度疑いだすと、その不信感を簡単には拭えない。

ましてや集団となれば、なおさらだ。


感染するように、瞬く間に広がっていく。


“噂”の怖さを、私は誰よりもよく知っている。



動悸が速くなる。

胸の奥で心臓が暴れて、息を急かす。


苦しい。

苦しいけど……言い知れぬ興奮が、体中を駆け巡る。

それは決して心躍るようなものじゃなく、静かに脈打つ躍動感。


僅かに差す光。

息を潜める、不安。

どうなるのかわからない期待と戸惑いが、入り混じる。


私だけじゃ、覆すことなんてできなかった。

私一人の力じゃ。


だけど今、完璧だったはずの田川と本城咲妃の世界に、ヒビが入りかけている。


ハイジが、アイツらに揺さぶりをかける。



「こんなに可愛いのに」



ふと、ぽつんと誰かが呟いた。

私の隣で。


そちらに目を向けたら、ウルトラマンなジローさんが私を見下ろしていた。


ジローさん……

か、可愛いってなに!?
もしや、それ、私へのお言葉!?

わかんない、この人唐突すぎてわかりにくい……!!


無駄にドキドキさせないでほしい。

ただでさえ心臓くんが頑張ってくれてるのに、これ以上負担をかけたら息が止まりそう。