全ては──彼女の計算通りだった。
私だけでなく、ジローさん達をも加害者に仕立て上げる。
彼らに憧れや好意を抱いていた者達の心変わりを、狙ってのこと。
そして、本城咲妃の狙い通り。
廊下を埋め尽くす生徒達の視線に、不審の色が宿り始めていた。
今や、集まっているのは一年生だけじゃない。
二年も三年も、ジローさんたちをひと目見ようと押しかけている。
事情を理解しているのは、一年生だけなんだろうけれど。
その証拠に、上級生が私たちに向ける眼差しは、ただ好奇心に駆られた軽薄なものに過ぎなかった。
──最低。
口にせずとも、聞こえてくる。
全員がそう言っている。その目が、語っている。
田川大輔と本城咲妃がでっち上げた虚言を、真実にしてしまうんだ。
「行こ」
短くそう言って、本城咲妃は田川と取り巻きに目で合図を送った。
踵を返し、私に背を向けて歩き出す。
けれど、すぐに足を止め……ゆっくりと振り向いた。
彼女の背中を、噛みつきそうな表情で睨みつけていた私へと、振り向いたんだ。
そして、口元を三日月の形に歪めて笑った。
魔女のような微笑を、私に贈るために。
その瞬間──
“いけない”
警報が、頭の中で鳴り響いた。
理性のタガが外れ、激情が洪水のように溢れ出し、私は自分を止められなくなる──
もうダメだと、思った。
「待てや」
けれど、
「誰が行っていいっつった。ショーの見せ場はこれからだろうが」
突然、私の視界に広がったのは──
「主役はてめーらだ。さすがだよなぁ、大した演技力だ」
大きな背中。
そして視線を上げた先にある、鮮烈な緑。
緑の髪が、私の目を惹きつける。
「ショーを盛り上げんのが、主役の仕事だろ?役目放棄は感心しねえなぁ。主役なら主役らしく、最後までやり遂げてみせろ」
その低く響く声も、アイツらしい挑発的で意地悪な口調も、何もかもが私を惹きつけてやまない。
ハイジの背中から、目が離せなかった。
ハイジ、なんで?
私が衝動に呑まれそうになるのを、止めてくれたの?
防いでくれたの……?
どうして?
「……ショー?何が言いたいわけ?」
美しい魔女は、勝利の笑みをみるみるうちに消していく。
笑顔の欠片さえも見せず、自信に満ちた表情は崩れ去った。
立ち去るために踏み出していた足を戻し、本城咲妃は再び、こちらに向き直った。
彼女に続いて、取り巻き達も田川も、その友人たちも動く。
全員の刺々しい視線が、ハイジへと注がれた。
場の空気はさらに張りつめ、神経が研ぎ澄まされていく。


