気まぐれヒーロー2




全ては──彼女の計算通りだった。


私だけでなく、ジローさん達をも加害者に仕立て上げる。

彼らに憧れや好意を抱いていた者達の心変わりを、狙ってのこと。

そして、本城咲妃の狙い通り。
廊下を埋め尽くす生徒達の視線に、不審の色が宿り始めていた。

今や、集まっているのは一年生だけじゃない。
二年も三年も、ジローさんたちをひと目見ようと押しかけている。

事情を理解しているのは、一年生だけなんだろうけれど。

その証拠に、上級生が私たちに向ける眼差しは、ただ好奇心に駆られた軽薄なものに過ぎなかった。


──最低。


口にせずとも、聞こえてくる。
全員がそう言っている。その目が、語っている。

田川大輔と本城咲妃がでっち上げた虚言を、真実にしてしまうんだ。


「行こ」


短くそう言って、本城咲妃は田川と取り巻きに目で合図を送った。

踵を返し、私に背を向けて歩き出す。

けれど、すぐに足を止め……ゆっくりと振り向いた。

彼女の背中を、噛みつきそうな表情で睨みつけていた私へと、振り向いたんだ。

そして、口元を三日月の形に歪めて笑った。
魔女のような微笑を、私に贈るために。


その瞬間──


“いけない”


警報が、頭の中で鳴り響いた。

理性のタガが外れ、激情が洪水のように溢れ出し、私は自分を止められなくなる──

もうダメだと、思った。




「待てや」




けれど、




「誰が行っていいっつった。ショーの見せ場はこれからだろうが」




突然、私の視界に広がったのは──




「主役はてめーらだ。さすがだよなぁ、大した演技力だ」




大きな背中。

そして視線を上げた先にある、鮮烈な緑。


緑の髪が、私の目を惹きつける。




「ショーを盛り上げんのが、主役の仕事だろ?役目放棄は感心しねえなぁ。主役なら主役らしく、最後までやり遂げてみせろ」




その低く響く声も、アイツらしい挑発的で意地悪な口調も、何もかもが私を惹きつけてやまない。


ハイジの背中から、目が離せなかった。



ハイジ、なんで?

私が衝動に呑まれそうになるのを、止めてくれたの?
防いでくれたの……?

どうして?



「……ショー?何が言いたいわけ?」



美しい魔女は、勝利の笑みをみるみるうちに消していく。
笑顔の欠片さえも見せず、自信に満ちた表情は崩れ去った。

立ち去るために踏み出していた足を戻し、本城咲妃は再び、こちらに向き直った。

彼女に続いて、取り巻き達も田川も、その友人たちも動く。


全員の刺々しい視線が、ハイジへと注がれた。


場の空気はさらに張りつめ、神経が研ぎ澄まされていく。