気まぐれヒーロー2




たった、二日……離れていただけ。

なのに、すごく昔のことのように感じる。


彼の眼差し、立ち姿。
あの、銀色も──。


溢れるように、彼と過ごした時間や屋上での記憶が、胸を埋めつくしていく。


あの夜、誓ったはずだった。

もう忘れようって。忘れなきゃいけないって。


叶わない想いを胸にしまっておくくらいなら、捨ててしまおうって。


でも……無理だった。


一目彼を見ただけで、そんな脆い誓いは一瞬で崩れ去った。

砂のように形も無く、攫われていく。


忘れようと思えば思うほど、彼の存在は大きくなっていく。
本当はちっとも、気持ちを消すことなんてできなかった。



──好き。



やっぱりそれだけしか、出てこないの。



だけど今、私はハイジに押し倒されていて。
胸元も太股も、大胆なほどに露出させられている。

一番ジローさんには、見られたくなかった状況だった。

頭が、真っ白になりそう。


ジローさんに気を取られているハイジの隙をついて、私は全力でヤツを突き飛ばし、逃げ出した。


「、お前……」


微かによろめいたハイジが何か言ったけれど、どうでもよかった。

乱れた制服を整え、ジローさんへと走った。
自然と、足が彼に向かっていた。



誤解しないで──。



それだけを、願いながら。



「ジローさん、あの……」



目の前に立って、彼の綺麗な顔を見上げる。

透き通る茶色の瞳に、閉じ込められる。


怒っているのか。

呆れているのか。

それとも、どうでもいいのか……。


他者を寄せつけないようなその目に、息を飲む。

言葉が出てこなくて、ただ、見つめ合うだけ。


彼の顔を見るたび、“彼女”が浮かぶ。

彼と並ぶのに相応しい、美しい人。


甘い香りと、甘い声。


“意外と上手いんだよね、キス”


息詰まるような苦しさに、ますますジローさんにどう接したらいいのかわからなくて、俯くことしかできなかった。


こんな自分が、嫌い。

ジローさんからしたら、鬱陶しいだけじゃない。


わからない。
わからないの。


私と彼は……何?


再び顔を上げ、ジローさんと視線を絡ませる。


彼は……

重たい口を開き……




「うぷっ」




と言った。