たった、二日……離れていただけ。
なのに、すごく昔のことのように感じる。
彼の眼差し、立ち姿。
あの、銀色も──。
溢れるように、彼と過ごした時間や屋上での記憶が、胸を埋めつくしていく。
あの夜、誓ったはずだった。
もう忘れようって。忘れなきゃいけないって。
叶わない想いを胸にしまっておくくらいなら、捨ててしまおうって。
でも……無理だった。
一目彼を見ただけで、そんな脆い誓いは一瞬で崩れ去った。
砂のように形も無く、攫われていく。
忘れようと思えば思うほど、彼の存在は大きくなっていく。
本当はちっとも、気持ちを消すことなんてできなかった。
──好き。
やっぱりそれだけしか、出てこないの。
だけど今、私はハイジに押し倒されていて。
胸元も太股も、大胆なほどに露出させられている。
一番ジローさんには、見られたくなかった状況だった。
頭が、真っ白になりそう。
ジローさんに気を取られているハイジの隙をついて、私は全力でヤツを突き飛ばし、逃げ出した。
「、お前……」
微かによろめいたハイジが何か言ったけれど、どうでもよかった。
乱れた制服を整え、ジローさんへと走った。
自然と、足が彼に向かっていた。
誤解しないで──。
それだけを、願いながら。
「ジローさん、あの……」
目の前に立って、彼の綺麗な顔を見上げる。
透き通る茶色の瞳に、閉じ込められる。
怒っているのか。
呆れているのか。
それとも、どうでもいいのか……。
他者を寄せつけないようなその目に、息を飲む。
言葉が出てこなくて、ただ、見つめ合うだけ。
彼の顔を見るたび、“彼女”が浮かぶ。
彼と並ぶのに相応しい、美しい人。
甘い香りと、甘い声。
“意外と上手いんだよね、キス”
息詰まるような苦しさに、ますますジローさんにどう接したらいいのかわからなくて、俯くことしかできなかった。
こんな自分が、嫌い。
ジローさんからしたら、鬱陶しいだけじゃない。
わからない。
わからないの。
私と彼は……何?
再び顔を上げ、ジローさんと視線を絡ませる。
彼は……
重たい口を開き……
「うぷっ」
と言った。

