そのままタイガーマスクは、無言でこちらへ歩いてくる。
近づくごとに押し寄せてくる邪悪な気迫に、息を飲んだ。
タダならぬ雰囲気。
極悪だ、極悪度が増している。
そして、ブラックタイガーマスクはケイジくんの横でピタリと足を止め──
彼にプロレスの技をかけていた。
ケイジくんは「あだだだだ!!や、八つ当たりバイオレンス反対!!」と、ジタバタ足掻いていた。
どうやらタイガーマスクはよっぽど頭にきていたらしく、大人には到底なりきれていなかった。
いつしか、私たちのいる一年の階は人で埋め尽くされていた。
それもそうだ。
“鷹”のメンバーが三人もいるんだから。
距離を取りながらも、みんな目を離せずにいる。
私にはおバカでハチャメチャで、でもどこか温かくて、惹かれる魅力を持っている人たち。
それでも、みんなの目に映る彼らは、私の知らない“別の色”を纏っていた。
彼らの過去。
その噂を聞いた人々は、理解より先に恐れを抱く。
憧れと恐怖が入り混じる視線。
「……ふーん、やっとわかった。あんた達がなんで花鳥さんを庇うのか。花鳥さんの兄でしょ。それだけでしょ、理由は。良かったね、お兄さんが有名な不良で」
本城咲妃がお兄ちゃんのことを口にするたび、私の信念がぐらつきそうになる。
だって──私自身も、そうかもしれないと思ってたから。
私は“花鳥響の妹”。
みんなの目に映る私の後ろに、お兄ちゃんの影があることもわかってる。
お兄ちゃんが、始まりだった。
それを否定するつもりはない。
だけど、ふと思うことがあった。
私を……“私自身”を、彼らはどう見ているんだろうって。
本当は、不安だったんだ。
もしも私が“花鳥響の妹”じゃなかったら──
それでも彼らは、私を仲間として受け入れてくれてたのかな。
「それで正義のヒーロー気取りってわけ?笑わせないでよ。あんた達だって、あたしとやってることは変わらないくせに」
次々とジローさん達を挑発する本城咲妃に、場の空気がぴりついていく。
周囲の視線が一斉に彼女へと注がれ、誰もが息を詰めた。
いつ彼らがキレるか──暴れ出すか。
そんな一触即発の緊張が、じわりと場を覆っていく。


