「調子乗んなよ」
私を見下ろす目も、掠れた声も冷たくて。
さっきまでのふざけた態度は脱ぎ捨てたハイジが、私を恐怖という鎖で縛った。
「……もう、騙されないから」
声の震えを悟られないよう平気なフリして、私はハイジから視線を逸らさず返した。
負けたくなかった。
いつもいつも力ずくでどうにかしようとする、この男に。
「今度は途中でやめたりしねえよ」
不穏な笑みを浮かべ、ハイジが私の心を見透かすように言う。
その武骨な手が、制服越しに私の体を探るように這った。
「い、や……」
途端に浮ついていた“恐怖”は現実に形となって、私に襲いかかってきた。
ハイジの肩を押し返そうとも、足をばたつかせてみても。
びくともしない。
私の意思なんか関係なく、行為は進められていく。
私は、タブーを犯した?
ケイジくんの、こと?
ハイジを豹変させたのは……双子の彼なの?
ハイジがケイジくんに抱く思いや、二人の間にある絡まる糸は、私には……見えない。
「やめて、ハイジ……!」
ハイジが自分を見失ってることも、こんなのは一時の激情にしか過ぎないことも。
わかってるから。
首筋を這う、唇。
太股をなぞる、指。
ハイジの体の、重み。
抗えない、力。
“あの時”とは違う、獣じみた衝動に……身動き取れない。
それでもカラダは熱くなっていって、
それがハイジの体温なのか、自分自身の熱なのか。
もう区別すらつかなくなった頃──
突然、教室の戸が開いた。
その音に反応したのか、ハイジの肩が僅かに揺れて、動きが止まる。
ハイジが振り返った先へ、私もヤツの肩越しに視線を向けた。
どうして。
どうして、“今”なの……?
気が遠くなるような感覚に、軽く目眩すら覚えて。
そこに立つ人から、目を離せなかった。
「ジローさん……」
無意識に、その人の名を──私は紡いでいた。

