気まぐれヒーロー2




目を見開いたまま、硬直する私の顔に落ちてくるのは……

細かく刻まれた焼きそばの麺、肉、ニンジン、キャベツの欠片。

それらが髪や肌に張りつく感触が、神経を逆撫でする。


男は、中身の抜けたパンを私の顔に投げつけてきた。

床に転がるその抜け殻を、無心で見つめていた。



「あはは、サイコー!!」

「きったねーなー、ちゃんと味わって食えよ?」

「残したらもったいないしねー」

「その格好、似合ってるよ。ブスな顔には」



片手を足で踏まれたまま、髪にも顔にも脂ぎった焼きそばがこびりついている。

ショックで、何も考えられず、ただ固まるしかなかった。

それを大口開けてバカみたいに笑うヤツらの声が、頭の中に反響していた。



わからない。


何が起きたのか、わからない。


どうして、こんなことになってるの?


やっぱり……私一人じゃ、ダメなの?


大勢の前じゃ、無力でしかないの?


悔しい。


悔しい……!!



「あんたの兄、“花鳥響”だっけ?随分と有名らしいじゃん、不良の間じゃ。血は争えないってわけだ?」



本城咲妃の嘲笑まじりの声に、虫酸が走る。
全身の血が煮えたぎるのがわかった。


口の中に、鉄のような血の味がじわじわと広がる。

強く噛みすぎて、唇を切っていたらしい。



「だから……なに?」



声が、震える。

あまりにも、頭にきすぎて。

怒りを通り越して、自分を見失いそうになるほどだった。



──お兄ちゃんの名を、口にしないで。


あんたみたいな人間が……

軽々しく、お兄ちゃんを語らないで!!




「何を言われようと構わない。私は……“花鳥響”の妹だってことを、誇りに思ってんだよ!!!」




やられっぱなしで、終わらせたりしない。

私はまだ、戦える。


だから、噛みついてやった。

本城咲妃の足に。


私の手を踏みつけている、その細い足首に、思いきり──噛みついた。


ホント……私、犬みたい。



「きゃ……!」



予想もしていなかった私の行動に、本城咲妃が小さな悲鳴を上げ、後ずさる。



「てめえ!!」



男が拳を振り上げるのと──“それ”は、ほぼ同時だった。



「意外やな。可愛げのない、プライドの塊みたいな女かと思ったら……ちゃ~んと女の子らしい声、出せるんやん?」



聞き慣れた関西弁。

その声に、恐る恐る顔を上げる。


鮮やかな赤い髪が、真っ先に目に入った。