まさか……
ハイジ……
「一目惚れしちゃったの?」
ほんの軽い気持ちで聞いただけなのに。
「ねーよ」
おっそろしいほど冷めた目と声で、返された。
心臓が縮み上がった。
じゃあ何のために聞いたのよ、と不満げにハイジを見上げると──
「お前のダチ、惚れてんだろ。ケイジに」
少し声を落として言うハイジに、ぎょっとした。
「アイツは……ケイジはやめといた方がいいぜ」
さらに続いたその言葉が、私を惑わせた。
コイツ、意外と鋭い。
小春が、ケイジくんに恋してることに気づくなんて……。
ハイジのくせに。
でも、それよりも重大なのはコイツの深刻な一言。
「それ、どういうこと?」
ハイジの目は冗談じゃなく、本気で小春とケイジくんを見据えていた。
それにハイジはケイジくんと双子で、私なんかよりずっと彼を理解しているはずだから、余計に気になった。
「アイツさ……」
慎重に言葉を選ぶように、ハイジの視線が私に向いた。
ごくりと唾を飲み込み、その続きを待つ。
そして──
「ゲイなんだよ」
至極真面目な顔で、ハイジは言い放った。
………………
…………
……
「ウソでしょ」
「残念だな。俺はウソはつかねえ男だ」
「……」
やっぱウソじゃん。
一瞬でもドキッとした私がバカだった。
なんかアホらしくなって、自分の席に戻ることにした。
なんでハイジってこういうムダなウソをつくんだろ。
真に受けて心細くなったりして、損した。
「待てって」
足を出したその時、背後から腕を掴まれた。
反射的に顔だけ横に向けて、睨みつける。
「何よ、もうくだらないジョークはいらないから」
「ふーん。そーいう態度とるの。へ~。せっかくこの俺が親切にしてやったのによ」
「どこが親切?余計なお世話よ」
「うっわー可愛くねー!!」
「ふん!」
ホント、ワケわかんない。
ハイジといるとストレス溜まる。
ぷいっとそっぽを向いたら、「ブースブース」とブスを連呼された。
目を閉じて精神統一する。
ハイジの存在を頭の中から完全に消し去り、殺意の衝動をどうにか抑え込む。
相手にしない私に飽きたのか、やがてハイジは静かになり、
「もう知らねーからな。俺には関係ねーし」
と、憎たらしいセリフを吐いて教室を出て行った。
出ていく間際にチラッとこっちを振り返ったので、
シッシッと手で払うと、青筋立ててドアを激しく鳴らして去っていった。


