「ももちゃーん、ヒドイやん置いてくなんてさ~。けっこう効いたで、さっきの」
「うひっ……」
教室に足を踏み入れた瞬間、後ろから、しかも頭の上から声が降ってきた。
そーっと振り向くと。
「ケ、ケイジくん。ごきげん麗しゅう……」
赤髪のセクシーヤンキーが入り口の戸に手をつき、「ええパンチ持ってるやん」とにっこり笑いかけてきた。
私は引きつった笑顔しか返せない。
「あ……おはよう、ケイジくん」
「お、小春ちゃんやん。おはよー。今日も可愛いな」
「え!そ、そんなことないよ!」
躊躇いがちに声をかけてきた小春に気づくと、ケイジくんはさっきとは打って変わって優しい笑顔を見せた。
ちゃんとプリンスらしいセリフも忘れていなかった。
『可愛い』なんて言われた小春は、瞬く間に耳まで赤く染まって、俯いてもごもごしてる。
本当に可愛いなと思う。
小春本人にまだケイジくんが好きなのか聞いたことはないけれど、この様子を見る限り、きっとそう。
「なあ小春ちゃん聞いて~。さっきももちゃんになぁ──」
潤んだ瞳でケイジくんを見つめる小春は、まるで恋する乙女そのもの。
意識はしてないんだろうけど、熱っぽい視線を彼に送ってる。
そんな小春を見てると……私も、会いたくなる。
ジローさんに。
早く、会いたい。
今朝の美女のことも、気にはなるけど……。
「ジローちゃんには会わねーほうがいいぞ」
「ひいっ」
にょきっといきなり横から顔を出してきたのは、緑頭だった。
視界いっぱいのまりもっこりに、心臓が早鐘を打ちまくっている。
まったく、この赤と緑の双子はいつも私の心臓に負担をかけてくれやがる。
違うクラスのはずなのに、ハイジが私の教室に来ていた。
クラスメイトたちは声を上げないまま顔を見合わせ、滅多に揃わない双子に釘付けになっている。
その視線が一気に集中して、教室の空気が張り詰めた。
「ちょ、ちょっと何なの?私の心のなか勝手に読まないでくれる?」
「俺はエスパーじゃねえんだ、んなもん読めるか。お前の顔見りゃわかる」
「え、うそ。そんな顔してないもん」
「してたっつーの。『ジローさんに会って頭ナデナデしてほし~い。ちゅーしてほし~い』って顔」
「バ、バカ!ちゅーなんて、そんな、そんなこと……!」
頭ナデナデは、してほしいって思ったけど……!
私とハイジは、普段と変わらない。
いつも通り言い合いしてるだけなのに、それが“奇跡の光景”みたいに見えるのか、クラス中の注目が集まってた。
いつのまにか教室の外にも、他のクラスの子たちがわんさか押し寄せて覗いていた。
見世物小屋の珍獣になった気分だった。


