一瞬、思考が止まった。頭が真っ白になる。
なんで……なんで、あの女の人がここに?
脳裏をよぎったのは、あの夜のコンビニでの光景。
ジローさんと親しげに寄り添っていた彼女の姿。
ジローさんも、優しく彼女を見つめていた。
“ハナ”──あのとき、そう呼んでいた。
本当に綺麗な人。
同じ女として信じられないくらいに。
今日もやっぱり眩しい。
凝ったデザインの可愛い清蘭女学院の制服を着ていて、どう見てもお嬢様。
あの車に乗ってる時点で、間違いない。
彼女の周りだけ、世界がキラキラして見えた。
さっきまでジローさんに会えるって浮かれてたのに、
一瞬でその気持ちはしぼんで、胸の中の熱も冷めていった。
「ハナ、どうしたんだよ」
「ふふっ。良かったぁ、間に合って。はい、コレ。寝坊しちゃったんだけど、どうしても冬也に渡したくて。頑張って作ったの」
美女はにこっと笑って、小さなピンクのバッグを飛野さんに渡した。
……お弁当?
でも、なんで彼女が飛野さんに?
「一日くらい、いいのに。毎日もらってんだから」
「ダメよ、一日だってサボったら意味ないもん。冬也のためだったら、苦にならないんだから。それに、自分のためでもあるのよ?」
なんか……飛野さんとあの美女は、やけに親しげで。
彼女が飛野さんに向ける笑顔は綺麗なのに、それ以上に、胸の奥をくすぐるような可愛さがあった。
「ね、新しいピアス買ったの。見てみて」
さらりと髪をかき上げ、耳を見せる美女。
飛野さんは言われるままに身を屈め、顔を近づけた──その瞬間。
私は見てはいけないものを、見てしまったんだ。
美女が、飛野さんの頬に柔らかくキスをした。
これは……何……?
あの人、ジローさんの彼女じゃないの?
どうして、飛野さんのほっぺにキスしてるの?
「っ、お前……!!」
「なぁに?唇がよかった〜?」
「あのな、そーいうことを言ってんじゃねーの」
「んふふ、わかってるってば。唇にしちゃったら、冬也怒るもんね。だからほっぺで我慢したんだよー?」
「……負けるよ、お前には」
飛野さんは慌てて彼女から離れ、頬を手で押さえた。
真っ赤になったその顔を、美女はイタズラな笑みで見上げる。
きっとこういうの、慣れてるんだろうな。
自然すぎて、まるで絵になってる。
女の私ですら、ドキドキしちゃうっていうのに……。
純情な飛野さんは完全にペースを崩されて、最後は小さく息を吐いて、観念したみたいだった。


