そして、家の近くまで来たところで、家の前じゃなくて少し手前で降ろしてほしいと飛野さんにお願いした。
「お詫びしなくていいのか?こんな時間まで連れ回しちまって」
「いいですいいです、そんな気を使ってもらわなくて結構ですから!!」
飛野さんは私の親に会うつもりだったらしい。
でも、そうなるとイケメン好きのお母さんの餌食になっちゃうだろうから、丁重にお断りしておいた。
きっとお母さんは近所迷惑も考えず、キャーキャーはしゃいじゃうに決まってる。
「じゃ、また」
「はい。おやすみなさい。今日は……本当にありがとうございました」
会釈すると、飛野さんは笑顔を返してくれた。
「なあ、母ちゃんに明日の朝は和食でって伝えといて」
「何のために!?」
ハイジの発言は、意味がわからなかった。
それから車は静かに動き出して、夜の闇に溶けていった。
──長かった一日が、終わる。
私のヒーローに出会えた日。
ずっと、私のヒーローだったお兄ちゃん。
だけどお兄ちゃんがいない今、彼らが私のヒーローになってくれた。
お兄ちゃんの意志を継ぐ、彼らが。
辛いこと、苦しいこと、悲しいこと。
沢山味わうことになったとしても──
一緒にいるんだ。
もっともっと、これから月日を重ねて、彼らのことを知っていきたい。
夜空に黄金の月が輝いている。
しばらく車が去っていた方を眺めていたけれど、一息ついて私は家に入った。
お母さんとお父さんと顔を合わせると、二人は安堵のため息を漏らして、温かく出迎えてくれた。
きつく叱られることもなく、「今度からは絶対に連絡を入れないと、お小遣いなしにするからね」と宣言されただけだった。
何があっても、連絡しよう。そう誓った。
罰もなく、張り詰めていた緊張がほぐれると、途端におなかが空いてきた。
「今日は手作り餃子よ」というお母さんの一言に大喜びして、制服から部屋着に着替えてテーブルにつく。
ワクワクして待っていると、「はい」と目の前に晩ご飯が出された。
「いっただっきまーす」
さあ食べよう、と思ったら。
「…………」
餃子は餃子でも、皮だけだった。
「どーしたのォ?食べないのォ?好きでしょ、餃子──の皮。オホホホホ~!!」
母はなんとも姑息な罰を、私に与えたのであった。


