後部座席に腰を下ろすと、ハイジが誰かと話してる声が聞こえた。
てっきり飛野さんかと思ったけど、スマホを耳にあてている。どうやら電話中らしい。
それもすぐに終わって、車はまた夜の道を走り出した。
「飛野さん、そこでちょっと停めて」
しばらくして、ハイジが急にそう言った。
何事かと思って前の座席を見つめる。
「え、何するの?」
「心配すんな、時間は取らねえから」
たぶん私が早く帰りたいのを分かってて、すぐに済むと教えてくれたんだろう。
飛野さんは車を端に寄せ、静かに停車させた。
ハイジはドアを開けて外へ出ていき、道の向こうの角を曲がって姿が見えなくなった。
閑散とした住宅街の中に、ぽつんと停められた黒い車。
車内には、私と飛野さんだけ。
ハンドルをトントンと指で鳴らしている飛野さんに、ふと疑問が浮かんだ。
「飛野さんって、タバコ吸わないんですか?」
いや、そもそもこの質問自体おかしいんだけどね。
20歳まで吸っちゃいけないんだし。
でも他のヤンキーレンジャーはみんな吸ってるのに、飛野さんだけ見たことなかったからちょっと気になった。
「んー、昔は吸ってたんだけどな。やめたんだ、味覚狂うから」
「へえ、そうなんですか」
飛野さんらしい理由。
さすが、由緒正しい料亭の跡取り息子なだけある。
「……忙しくなるな、これから」
「へ?」
「生き返ったのか、ジローが。お前も苦労するな」
いきなりそんなことを言われて、意味がわからなくて固まった。
けれど飛野さんは意味深に口角を上げただけで、それ以上の言葉はなかった。
そうしているうちに、ハイジが戻ってきた。
バタンとドアを閉めると、私に何かを放ってよこす。
「ほら、着替えろ」
反射的にキャッチして、手に持ったそれをまじまじと見つめる。
「なんで!?新しい制服じゃん!」
ハイジが渡してきたのは、パリッと糊のきいた新品のカッターシャツ。
きれいに折り畳まれたそれを見て、思わず声を上げてしまった。


