「飛野さんにも見せてやりたかったな~。あのアツ~いちゅーを」
「ちゅー?」
「ちょ、ちょっと!あんた飛野さんに余計なこと言わないでよ!!」
車は滑るように進んでいた。
ハイジがわざとらしい調子で、話を切り出す。
運転している飛野さんは、ちらりと横目をやってから、すぐに前方へ視線を戻した。
緑ボーズの魂胆なんて、とっくに見抜いていた私は、必死でその暴露を食い止めようとしていた。
もう……せっかく記憶の隅っこに押し込めていたのに、思い出しちゃったじゃん。
ジローさんとの、キス。
あの後のジローさんの仰天発言で、場の空気が一気に持っていかれた。おかげで、みんなそっちに気を取られてたのに。
今思い返すと、顔が熱くなってくる。
あんな大人数の前で、あんな堂々と……キ、キスなんかしちゃったりしたの私!?
しかもジローさんと……
宇宙人級にあり得ない美貌を持つ男の人と……
「や~だも~!!だ・い・た・ん☆」
「…………」
「…………」
頬を両手で押さえてデレデレしている私に、前の二人の氷のような視線が突き刺さる。
「お前の頭ん中はお花畑か。年中春か。咲き乱れか。なんてめでてーヤツなんだ」
ハイジは特に冷たかった。
気を取り直して大人しくしてると、窓の外には見慣れた景色が流れていた。
シャッターの降りた店、小学校、公園、コンビニ。
毎日通っていたはずの道が、今日はやけに懐かしく感じる。
現実なのに、どこか夢の続きみたいだった。
“黒鷹”の非日常から、“私の世界”へ──そんな自然な切り替えを、この当たり前の風景が運んでくれる。
「花鳥、その子の家どこらへんかナビってくんねーか」
「あ、はい。そこの角を右に曲がって真っ直ぐ行って……」
ぼんやり外を見ていた私は、飛野さんに話しかけられ、慌てて意識を戻した。
うろ覚えながらも、道順を説明する。
朝美の家はわりと近くて、だいたいの場所は覚えていた。
「朝美、起きて。家に着いたよ」
ほんの少しヨダレを垂らしながら、半目で寝ている朝美の肩を揺らし、声をかけた。


