最初に聞こえたのは、お母さんらしくない、疲れきった小さな声だった。
でも相手が私だとわかった瞬間、その声は跳ね上がって、怒鳴る一歩手前みたいに強くなった。
私はとても後悔した。
お母さんはきっと、ずっと待ってたんだ。
私からの連絡を。
でもスマホの充電が切れてたから、どれだけ電話してもメッセージを送っても、何も返事はなかった。
心配だったに決まってる。
いつもきちんと連絡してた私が、何も言わずにいなくなったんだから。
電話の向こうのお母さんは、怒りはしなかった。
ただ静かに、私が無事なのかを確認し、「早く帰ってきなさい」とだけ言って電話を切った。
怒鳴られてめちゃくちゃなこと言われるんだろうと、覚悟していたのに。
いつもパワフルなお母さんの元気のない声に、胸が痛んだ。
響兄ちゃんのことがあるのに……。
どれだけ不安にさせただろう。
お父さんもきっと心配してる。
早く帰って顔を見せて、安心させてあげたい。
スマホをハイジに返して、車に乗り込んだ。
運転席には飛野さん、後部座席には朝美がいた。
……けど、彼女はすっかり眠っていた。
「緊張して、疲れたんだろうな」
そう言って飛野さんが、穏やかに笑った。
朝美に質問攻めにあわなかったのか、ちょっと気になったけど……聞くのはやめておいた。
「んで、どうなった」
「今サシでやりあってるよ」
「何だそりゃ」
助手席に乗り込んだハイジに、飛野さんがジローさんとタイガのことを聞いて、吹き出した。
あの場にいなかった飛野さんからすれば、なんでそんなことになってるのか可笑しくてたまらないらしい。
「飛野さん、あの……」
「ん?」
「図々しいお願いで申し訳ないんですけど……家に、急いで帰らないといけなくて……」
「ああ、そうか。ごめんな。じゃあちょいと飛ばして帰るか。パクられねえ程度にな」
ハイジとの話を邪魔してしまったにも関わらず、飛野さんは快くお願いを聞いてくれた。
そして車は走り出した。
ぐんぐんスピードを上げて進む車の後ろの窓から、倉庫がどんどん遠ざかっていく。
その姿が見えなくなるまで、私はずっと目で追っていた。
また、明日。
ジローさんに会える。
ジローさんの『またな』を、胸にしっかりと抱きしめながら。
──おやすみなさい。
そう、心の中で彼に囁いた。


