気まぐれヒーロー2



最初に聞こえたのは、お母さんらしくない、疲れきった小さな声だった。
でも相手が私だとわかった瞬間、その声は跳ね上がって、怒鳴る一歩手前みたいに強くなった。


私はとても後悔した。

お母さんはきっと、ずっと待ってたんだ。
私からの連絡を。

でもスマホの充電が切れてたから、どれだけ電話してもメッセージを送っても、何も返事はなかった。

心配だったに決まってる。
いつもきちんと連絡してた私が、何も言わずにいなくなったんだから。

電話の向こうのお母さんは、怒りはしなかった。

ただ静かに、私が無事なのかを確認し、「早く帰ってきなさい」とだけ言って電話を切った。

怒鳴られてめちゃくちゃなこと言われるんだろうと、覚悟していたのに。

いつもパワフルなお母さんの元気のない声に、胸が痛んだ。


響兄ちゃんのことがあるのに……。

どれだけ不安にさせただろう。


お父さんもきっと心配してる。

早く帰って顔を見せて、安心させてあげたい。


スマホをハイジに返して、車に乗り込んだ。


運転席には飛野さん、後部座席には朝美がいた。
……けど、彼女はすっかり眠っていた。



「緊張して、疲れたんだろうな」



そう言って飛野さんが、穏やかに笑った。

朝美に質問攻めにあわなかったのか、ちょっと気になったけど……聞くのはやめておいた。



「んで、どうなった」

「今サシでやりあってるよ」

「何だそりゃ」



助手席に乗り込んだハイジに、飛野さんがジローさんとタイガのことを聞いて、吹き出した。

あの場にいなかった飛野さんからすれば、なんでそんなことになってるのか可笑しくてたまらないらしい。



「飛野さん、あの……」

「ん?」

「図々しいお願いで申し訳ないんですけど……家に、急いで帰らないといけなくて……」

「ああ、そうか。ごめんな。じゃあちょいと飛ばして帰るか。パクられねえ程度にな」



ハイジとの話を邪魔してしまったにも関わらず、飛野さんは快くお願いを聞いてくれた。

そして車は走り出した。

ぐんぐんスピードを上げて進む車の後ろの窓から、倉庫がどんどん遠ざかっていく。
その姿が見えなくなるまで、私はずっと目で追っていた。


また、明日。
ジローさんに会える。


ジローさんの『またな』を、胸にしっかりと抱きしめながら。


──おやすみなさい。


そう、心の中で彼に囁いた。