外に出ると、もうすっかり夜が深くなっていた。
星と月明かりに照らされた地上を、涼しい風がそっと撫でていく。
倉庫の前でも少年達がバイクに跨ったり、改造車で遊んだりしていて、倉庫の中と同じくらい賑やかだった。
家に帰らず、こんな時間まで遊んでて……親は心配してないんだろうか。
でも、彼らには帰る場所がないのかもしれない。
それぞれに事情があって、帰れないのかもしれないし、帰らないのかもしれない。
ここは、そういう子達が自然と集まる場所なんだろうから。
ハイジやケイジくんだって……
“アイツら母親いないんだろ。父親もアル中らしいしな”
彼らなりの事情があるんだ。
ハイジの後を歩きながら、いつもふざけて明るく笑ってる彼らの裏にある暗い影を思うと、なんだか複雑な気持ちになった。
大勢の少年達がたむろする中を通ると、ハイジはあちこちから声をかけられていた。
同年代らしき少年達に囲まれ、屈託なく笑っている。
それから彼らは私にも話しかけてきて、その目は好奇心でキラキラしていた。
「わりーな。コイツ、人間の言葉わかんねーんだわ。次までには教えとくから、今日は勘弁してやってくんねーか」
派手な男の子たちの興味の的になり、どう返したらいいかわからずおろおろしていた私を、ハイジがさりげなく助けてくれた。
続いて「ジローちゃんのペットだからさ〜」なんて冗談をかますと、少年達は大げさなほど笑い声を上げた。
「じゃー次、次な!待ってっからさ、俺らとも話してよ。ハイジじゃなくて、俺らがニホンゴ教えてあげるからさ!」
怖そうに見えても、無邪気な笑顔を見ると、私とそう年の変わらない“子供”なんだって思えて、少し安心した。
ハイジの意地悪な発言も、早く私を帰そうとしてくれてるんだって、ちゃんとわかってる。
「バーカ、お前らじゃロクなニホンゴ教えねーだろ。お前らみてーなサカったサル共には任せらんねーよ」
「まりもっこりに言われたくねーよな~」
「っ!!」
どうやらもう、外にいた子達にも“まりもっこり”の件が広まっていたらしく、ハイジは少年達に爆笑されていた。
少し赤くなったハイジに睨まれた私は、知らんぷりをしておいた。
「っせーな、てめーら!てめーらなんかなァ、豚の足にネンリキなんだよ!!」
ハイジはそう吐き捨てると、笑い続ける少年達に背を向け、私の手首を掴んで強引に歩き出した。
豚の足に念力……?
何のことだろう。
頭をひねって、散々考えた結果。
多分、多分だけれど。
『馬の耳に念仏』と言いたかったんじゃないだろうか。
いやでも、使い方おかしいし。
馬を豚と間違えるだけでも意味不明なのに、念仏を念力とは?
謎。まりもっこりの脳内は、まったくもって謎すぎる。
ぐいぐい手を引かれながら、私は“風切灰次”という不思議な生命体に首をかしげていた。


