気まぐれヒーロー2



大きな輪の中にジローさんが入っていくと、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに止まった。

輪の中心にいたタイガも、目の前で立ち止まったジローさんを、ぽかんとした顔で見ている。


誰もが言葉を忘れて、成り行きを見守るなか──


ジローさんは、タイガを思いっきり殴り飛ばした。



「!!」



鷹のメンバーもハイジも、遠目に見ていた私も……全員、目が点になった。


本気の拳は、タイガの頬を正確にとらえる。

倒れはしなかったけど、よろめいてなんとか踏ん張った彼の顔には、痛みと怒りが混ざっていた。

口元には薄く血が滲んでいる。



「っ、てめえ!ついにトチ狂ったか!!」



眉間に皺を寄せて、睨みつけるタイガに、



「借りは返さねえとな。トラ、久々にとことんやろうぜ。お前じゃねえと“喧嘩”になんねえ」



惚れぼれするほどに妖しくてセクシーな笑みを、ジローさんはお返しした。

この人、どこまで美しければ気が済むんだろう。

セクシーっていうか、もはやセクスィーの域だ。


そして、そこには色気だけでなく、キングとしての威厳すら宿っていた。

鷹の目に満ちるのは、誰にも真似できない圧倒的な覇気。


──ああ、この人は“絶対”なんだ。


やはり“白鷹次郎”という男は、生まれながらにして、人を従わせる王の血を引いているに違いない。



深く暗い闇に囚われ、地を這っていた鷹が──

いま大きな翼を広げて、空へ舞い上がろうとしている。



その姿を、タイガは呆然と見やっていた。

口半開きだよ、アホヅラになってるよ、なんて野暮なツッコミは誰も入れなかった。


ジローさんに見惚れていたタイガは、しばらくして我に返る。



「……ったく、俺はヤロウとド突き合うより、女を突いててえんだけどな」



口角を上げて、不敵に笑ってみせた。

そんなことを言いつつも、タイガはまんざらでもなさそうだった。

ちゃっかり、エロ発言も忘れてはいない。


ジローさんには敵わないけれど、男前だった。


そして二人を煽るように、周りの鷹のメンバーたちが一斉に盛り上がる。



「やれやれ!!この際だ、アタマがどっちかタイマンで決めろ!!」
「ハンパはナシだぞ、潰れるまでだ!!俺達が見届けてやるからよ!!」
「ハハハ、バカ言うな、ジローが相手じゃタイガは()が悪ィ」
「賭けようぜ、タイガが何分もつか!」
「何分?何秒じゃなくてか?」
「けど黒羽さんには、エロって武器があんじゃねーか。白鷹さんが鼻血出したら、勝負はわかんねーよ」



倉庫の中は一気に沸き立ち、まるで格闘技の会場みたいだ。
物騒な言葉が飛び交い、ジローさんとタイガは勝手に賭けの対象にされている。


私には、やっぱり理解しがたい世界。

拳で語る、男たちの世界。


それでも──

心から笑ってはしゃぐ彼らを見て、私はその絆をちょっとだけ羨ましいって思ったんだ。



「行くぞ」



すごい熱気と怒号に押され、一歩どころか五十歩ほど後退して見ていた私に、



「もうここに用はねーだろ」



声をかけてきたのは、ハイジだった。