大きな輪の中にジローさんが入っていくと、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに止まった。
輪の中心にいたタイガも、目の前で立ち止まったジローさんを、ぽかんとした顔で見ている。
誰もが言葉を忘れて、成り行きを見守るなか──
ジローさんは、タイガを思いっきり殴り飛ばした。
「!!」
鷹のメンバーもハイジも、遠目に見ていた私も……全員、目が点になった。
本気の拳は、タイガの頬を正確にとらえる。
倒れはしなかったけど、よろめいてなんとか踏ん張った彼の顔には、痛みと怒りが混ざっていた。
口元には薄く血が滲んでいる。
「っ、てめえ!ついにトチ狂ったか!!」
眉間に皺を寄せて、睨みつけるタイガに、
「借りは返さねえとな。トラ、久々にとことんやろうぜ。お前じゃねえと“喧嘩”になんねえ」
惚れぼれするほどに妖しくてセクシーな笑みを、ジローさんはお返しした。
この人、どこまで美しければ気が済むんだろう。
セクシーっていうか、もはやセクスィーの域だ。
そして、そこには色気だけでなく、キングとしての威厳すら宿っていた。
鷹の目に満ちるのは、誰にも真似できない圧倒的な覇気。
──ああ、この人は“絶対”なんだ。
やはり“白鷹次郎”という男は、生まれながらにして、人を従わせる王の血を引いているに違いない。
深く暗い闇に囚われ、地を這っていた鷹が──
いま大きな翼を広げて、空へ舞い上がろうとしている。
その姿を、タイガは呆然と見やっていた。
口半開きだよ、アホヅラになってるよ、なんて野暮なツッコミは誰も入れなかった。
ジローさんに見惚れていたタイガは、しばらくして我に返る。
「……ったく、俺はヤロウとド突き合うより、女を突いててえんだけどな」
口角を上げて、不敵に笑ってみせた。
そんなことを言いつつも、タイガはまんざらでもなさそうだった。
ちゃっかり、エロ発言も忘れてはいない。
ジローさんには敵わないけれど、男前だった。
そして二人を煽るように、周りの鷹のメンバーたちが一斉に盛り上がる。
「やれやれ!!この際だ、アタマがどっちかタイマンで決めろ!!」
「ハンパはナシだぞ、潰れるまでだ!!俺達が見届けてやるからよ!!」
「ハハハ、バカ言うな、ジローが相手じゃタイガは分が悪ィ」
「賭けようぜ、タイガが何分もつか!」
「何分?何秒じゃなくてか?」
「けど黒羽さんには、エロって武器があんじゃねーか。白鷹さんが鼻血出したら、勝負はわかんねーよ」
倉庫の中は一気に沸き立ち、まるで格闘技の会場みたいだ。
物騒な言葉が飛び交い、ジローさんとタイガは勝手に賭けの対象にされている。
私には、やっぱり理解しがたい世界。
拳で語る、男たちの世界。
それでも──
心から笑ってはしゃぐ彼らを見て、私はその絆をちょっとだけ羨ましいって思ったんだ。
「行くぞ」
すごい熱気と怒号に押され、一歩どころか五十歩ほど後退して見ていた私に、
「もうここに用はねーだろ」
声をかけてきたのは、ハイジだった。


