「今日は、帰れ」
人目なんて気にせず、ぐすぐす泣く私の頭に、優しい手が置かれた。
次に降ってきた声は、さっきよりもずっと優しかった。
「おやすみ、な」
──大好き。
ジローさん、あなたが好き。
ジローさんの温もりに、ずっと包まれていたい。
その温かい手に、ずっと触れていたい。
「お前が俺んとこに帰ってこねえのも、仕方ねえ。お前にもお前の時間が必要なんだろうしな。家出しても元気なら、それでいい」
……まだジローさんは、私が家出してると思ってるらしい。
もう、それでもいいかな。
「明日、迎えに行く。首輪着けて待ってろよ」
そう言って彼が微笑んだ。
柔らかく、目を細めながら。
「またな」
ジローさん……
ちゃんと、わかってくれてたんだ。
私の不安も、心細さも。
“またな”
私が欲しかったのは、その言葉だった。
また明日、ジローさんと会える。
会っていいんだ。
ジローさんとの未来があるんだ。
嬉しすぎて、幸せの余韻が胸に溢れて。
「はい!」
笑ってそう返事するのが、精一杯だった。
ジローさんは、背の低い私に合わせて少し屈むと、おでこにふんわり口づけを落とした。
長い指で髪を優しく梳いてくれるのが、ちょっぴりくすぐったかった。
すっごくドキドキして、肩に力が入ってしまう。
顔から火が出そうなくらい真っ赤になった私を見て、彼は満足げに、静かに笑った。
そして、踵を返して歩き出す。
鷹の仲間やハイジとバカ騒ぎしている、タイガのもとへ。
私はただ、ぼうっとその背中を見送っていた。
悠々とした足取りで歩いていく彼を。


