気まぐれヒーロー2




「じゃあ、さんぽもまたいっぱい連れて行ってやれるんだな」

「そうですよ」

「『おて』もしてくれるんだな」

「そうですね」

「俺が選んだ首輪も着けてくれんのか」

「はい」



ジローさんの目が、少しずつ生き生きしてきた。

それを見て、私の頬までゆるんで、うんうんと頷いていた。

素直に言うことを聞く私に、ジローさんは“イケる”と思ったに違いない。

瞳の奥が一瞬光ったのを、私は見逃さなかった。



「ってことは俺を舐め」
「ません」



だけどそこは、私だって譲れない。

ジローさんの『舐めろよ』をうっかり受け入れちゃったら、いったいどんな目にあうか。
命に関わる問題なんだから。

しかし相手は、白鷹次郎。

荒くれ者達を仕切る、“黒鷹”のボス。


瞬時に据わる目が恐ろしすぎて、背筋がゾッとした。

ナマケモノが“鷹”へと変わる切り替わりの速さに、息を呑む。


そうなったら、私なんか鷹の餌食になるしかなく……
耳を舐められた。


一度火がついたら止まらない魅惑の王様はどんどん色っぽく、えっちになって、エスカレートしだしたから。

ハイジが猛スピードで止めに入ってくれた。

ジローさんはお邪魔虫なハイジによっぽど苛ついたのか、頭突きをくらわしていた。

痛そうで、ちょっと可哀相だった。


遠くから聞こえるおにーさん達の豪快な笑い声が倉庫内を揺らし、夜空にまで届きそう。

私はどっと疲れたけれど、みんなが笑顔だから。

何より、ジローさんがほんの少しでも元気を取り戻してくれたことが嬉しかった。


耳を舐められても、今は許せるような気がした。



「お前が、きっかけをくれた」



頭突きで悶えるハイジを鷹のおにーさん達がいじり、タイガもその輪に加わっている。

わいわい騒ぐ彼らを、ジローさんは遠巻きに眺めながら、突然そう切り出した。


きっかけ──?


仲間を映すジローさんの目は静かで、だけど強い光が宿っていた。

冷え切った目じゃない。全てを投げ捨てた目じゃない。


じっと鷹のメンバーを見つめる彼の横顔は綺麗で、精悍で逞しく、とても男らしかった。



「前はどうでもよかった。アイツらも俺自身も。失うもんもねえし、奪いてえもんもねえ。あの人が、全部持っていっちまったからな」



“あの人”


私はそれが、お兄ちゃんのことだと察した。

ジローさんが言わなくたって、きっとそうなんだろうと。


奪いたいもの──彼が何をお兄ちゃんから奪いたかったのか、それまではわからないけれど。