「じゃあ、さんぽもまたいっぱい連れて行ってやれるんだな」
「そうですよ」
「『おて』もしてくれるんだな」
「そうですね」
「俺が選んだ首輪も着けてくれんのか」
「はい」
ジローさんの目が、少しずつ生き生きしてきた。
それを見て、私の頬までゆるんで、うんうんと頷いていた。
素直に言うことを聞く私に、ジローさんは“イケる”と思ったに違いない。
瞳の奥が一瞬光ったのを、私は見逃さなかった。
「ってことは俺を舐め」
「ません」
だけどそこは、私だって譲れない。
ジローさんの『舐めろよ』をうっかり受け入れちゃったら、いったいどんな目にあうか。
命に関わる問題なんだから。
しかし相手は、白鷹次郎。
荒くれ者達を仕切る、“黒鷹”のボス。
瞬時に据わる目が恐ろしすぎて、背筋がゾッとした。
ナマケモノが“鷹”へと変わる切り替わりの速さに、息を呑む。
そうなったら、私なんか鷹の餌食になるしかなく……
耳を舐められた。
一度火がついたら止まらない魅惑の王様はどんどん色っぽく、えっちになって、エスカレートしだしたから。
ハイジが猛スピードで止めに入ってくれた。
ジローさんはお邪魔虫なハイジによっぽど苛ついたのか、頭突きをくらわしていた。
痛そうで、ちょっと可哀相だった。
遠くから聞こえるおにーさん達の豪快な笑い声が倉庫内を揺らし、夜空にまで届きそう。
私はどっと疲れたけれど、みんなが笑顔だから。
何より、ジローさんがほんの少しでも元気を取り戻してくれたことが嬉しかった。
耳を舐められても、今は許せるような気がした。
「お前が、きっかけをくれた」
頭突きで悶えるハイジを鷹のおにーさん達がいじり、タイガもその輪に加わっている。
わいわい騒ぐ彼らを、ジローさんは遠巻きに眺めながら、突然そう切り出した。
きっかけ──?
仲間を映すジローさんの目は静かで、だけど強い光が宿っていた。
冷え切った目じゃない。全てを投げ捨てた目じゃない。
じっと鷹のメンバーを見つめる彼の横顔は綺麗で、精悍で逞しく、とても男らしかった。
「前はどうでもよかった。アイツらも俺自身も。失うもんもねえし、奪いてえもんもねえ。あの人が、全部持っていっちまったからな」
“あの人”
私はそれが、お兄ちゃんのことだと察した。
ジローさんが言わなくたって、きっとそうなんだろうと。
奪いたいもの──彼が何をお兄ちゃんから奪いたかったのか、それまではわからないけれど。


