「だから、好きな人たちと私はこれからもいっぱいいっぱい笑いたいんです。悲しい時だって、ケンカした時だって、そういう時間も全部大事にしていきたいんです」
ジローさんは何も言わなかった。
けれどその沈黙の奥で、彼の心が少しずつほどけていくのを感じた。
静かな波のように、優しさが戻ってきている気がした。
「生きるって難しくて……うまく言えないんですけど、私は大好きな人たちとできるだけ沢山の時間を過ごしたいんです」
言葉に詰まったのは、うまく伝えようとしすぎたからじゃない。
胸がいっぱいで、涙がまた零れそうになったから。
ジローさんにも、この想いが少しでも届けばいいと思った。
「ジローさんのことを好きな人、こんなに大勢いるじゃないですか。ここにいる人、みんなジローさんのことが好きなんですよ。タイガなんて、ジローさん大好きすぎて困ってるって感じじゃないですか」
「そんなん一言も言ってねえけどな!!どうやったら俺がこの愛想もクソもねえ、死にかけのナマケモノを大好きだと取れるのか、教えてほしいくらいだけどな!!」
最後には、やけにムキになったタイガに怒られた。
「……お前、そんなに俺のこと好きなの?」
心底嫌そうな顔をして、ジローさんはタイガに冷ややかな視線を送る。
それを受けたタイガは、
「目ェつぶれ。3秒後にはお望み通り、てめえは地獄に落ちてるだろうよ」
気持ち悪いくらいニコニコ笑って、指を鳴らした。
「ジローさん、みんなと、私と一緒に生きましょう?笑って、生きていきましょう?」
一人じゃなくて、仲間と──。
「人は、人と生きていくんです。大丈夫、だってこんなにも楽しくて温かくて、優しい人達がそばにいてくれるんだもん」
ジローさんは一人じゃないのに。
タイガもハイジもケイジくんも飛野さんも。おにーさん達も。
太郎さんだって、あの女の人だって……いるのに。
どうして孤独だったんだろう。
どうして、死んだような日々を送ってたんだろう。
「お前は?」
「え?」
「お前は、俺のそばにずっといてくれんの?俺のそばで、笑っててくれんの?」
そんな目でじっと見つめられたら、どうにかなってしまいそう。
酷く寂しげで、どこまでも孤独な影がつきまとうジローさんの瞳に、私が言えることはただ一つだけだった。
「はい。だって、ジローさんは私のご主人様じゃないですか。ちゃんと責任持って、最後まで面倒みてくださいね」
彼の目をしっかり見ながら、私は微笑んだ。
すると──
突然ジローさんの腕が私の背中にまわされ、引き寄せられると、きつく抱き締められた。
顔を上げれば、目の前には睫毛を伏せ、溢れんばかりの色気を湛えたジローさんの顔があった。
私の唇に、彼の唇が重なった。
当然、私は目を閉じる余裕すらなく、ただ瞬きを繰り返すだけ。
抱き締められたままキスされるなんて状態がすんなり受け入れられるわけもなく、意識は別の世界に飛んでる。
こういう時に限って見学者達は騒ぎ立てることもなく、倉庫内は奇妙なほど静まり返っていた。
柔らかくて熱い唇がゆっくり離れると、ジローさんは私の体を抱く腕に、さらに力を込めた。
そして、彼は私の耳元で囁く。
“すまねえ。俺にはもう、お前と過ごせる時間……あんま残ってねえんだ”


